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第一回 水引きと熨斗(のし)包みについて

(1)水引き

 通過儀礼において一番大切な水引きでありますが、今日では何の考えもなしに使われていますのが現実の姿であります。関西の人が無造作に関東方式の包みをそのまま使用していますのは、感心出来るものではありません。この無造作、無関心さが、すべての冠婚葬祭に及び、通過儀礼の関西方式をなし崩しにしているのであります。

  関東と関西の根本的な違いは、関西は商人さんの町であり、関東は御武家さんの町であるということです。商人の町に於いては商人の風習があり、御武家さんの町には御武家さんの風習があって、何れも長い年月をば経ていますので、そう簡単に修正のきくことではありません。現実に、エスカレータ−の乗り方をみると、関西では商人の一番大切な算盤を右脇に抱える習性から「右寄り」、関東では御武家さんの大切な刀が不用意に当たると大問題でありますから、鞘当てを避けるために「左寄り」となったのでしょう。

 もうじき雛節句でありますが、関西方式では女雛は御所風の左側ですが、関東方式は武家屋敷の武士が上位ですから、左側が男雛であります。更に関西では、女性は御所風に仕立てますから優しい瓜実(うりざね)顔の顔立ちであります。関東では御殿風であり、女御ヶ島の大奥の女性が、更には大奥を守る別式女が、女性の代表ですから、御雛様の顔立ちは當然ながら異なります。

  これら諸式の禮法が異なるのは、関西が伊勢流で伊勢神宮を発祥とするからであります。伊勢の宮代(みやしろ)は 當然のことながら、大倭比賣女命(おおやまとひめのみこと)が最初に手がけられ、すべての神事の諸式を最初に定めて渡會(わたらい)家に伝えられていますから、伊勢流が其の後に於いて禮法として纏められたる方式となっています。

 禮法の基本は、伊勢の二見浦に立ち上る太陽の位置にあります。烏羽玉(うばたま)の暁暗に於いて、左の方より立ち上る太陽に対して、日靈女(ひるめ)は禊ぎ神事を行います。陽立ち昇る方が最初の神事、行事の場所でありますから、左は始点でもあり、神聖な方位とされています。伊勢に於いては 左が吉事であり、且つ日靈女が最初に太陽に伏し拝む神事により、一日が始まりますから、女性が上位とされるのであります。

  これをそのまま表しているのが、金銭を包む紙幣包みであります。関西方式に於いては、必ず三角が左側になるように特別な方式で折られています。関東では、武家は簡単に三つ折りにして右上を左端に折っています。

  伊勢に於いては、太陽がさし昇る左の方を上位とする習わしとなり、太陽は暗黒の闇を打破し、耀(かがや)ける世界を招くところから、神聖にして犯すことの出来ない尊い方としたのであります。ここから、不淨なるものをことごとく焼き払うとして、白色が最高の色彩とさだめられたのであります。

  白に次ぐ色彩は赤色ですが、生きとし生ける生命体の体内をめぐり生命を維持する赤き血潮が故とされています。天は白、人を赤で表せば、地なるは陽の射さぬ烏羽玉の漆黒の世界、黄泉路の國なれば、不淨の世界とされ、古来より 不淨なる色彩、不吉なるものとされたのであります。

 ここから、水引きを用いる場合には、一つの定めが生まれたのでありますが、 最初は紙縒(しさ)を杉原紙などの丈夫で薄手の生漉き和紙を幅約一寸程に裂いて用いていますから、当然ながら白色一色でした。しかし上古に於いては、うら若き女房たちが、この作業中に、より丈夫な紙縒を作るため、口元に指で唾をつけていましたので、口紅の色がところどころについたため、其の後に於いては紅色に染めて、白と紅との二色になったのであります。紅と白の色は「ウク」と云い、この水引きを用いたものは格式の高い水引きとされ、婚礼儀式では「クレナイ」よばれています。

 上古の堂上人が、贈答用に好んで用いたのは「金銀」ですが、其の後、格式を重んじた婚礼、長寿祝、新築祝いに用いられています。


 関西地方に於いては主として用いられていますのが「赤金」で、御祝儀、吉慶神事など用いられていますが、正式には略式に当たりますので、目上の人には注意が肝要です。
白金の代用として用いられいるのが「赤」であり、一般贈答用。餞別。御見舞。吉慶神事などに使用されています。

 特殊な用い方に「白紅」があります。「シロクレナイ」と云い、上古では大切な手紙の封緘用に用いていますが、現在では皇室用の献上物に使用されています。
上流家庭では、良く「赤黄」の水引きを心づけ用に使用しています。

 双白とよばれる白一色の水引きは、一般に用いられずに、神式、基督教式の葬儀に使用されています。逆に黒一色は 凶事専用であります。

 白黒の水引きは、関東では弔事、葬儀、告別式などに主として葬儀用として使用されています。関西では 單なる御布施、法事など、一般的不祝儀にも使用されていますが、京都、宇治など特定の地域では敬遠されていますので、注意が必要です。

 白青は白黒の略儀、古い年忌のみに使用されており、一般に使用されていません。
双銀とよばれる 白黄に就じての銀一色の水引きは、本來は 花嫁が先祖供養に、始めて線香の品をお供えするとき、若しくは 関東では神式のていねいな葬儀に使用します。

 白紫の水引きは、基本的には佛家相互の祝賀用の御佛前として使用します。白紺の水引きは檀家が、檀那寺の祝賀用の御佛前用に使用します。

(2)熨斗包み

 『倭姫命(やまとひめのみこと)世紀』によりますと、嶋之國の國崎嶋に御自ら行かれまして「御饌(ミケ) 御贄(オアヘノ)処」をば定むたるとありますが、倭姫命は伊勢の大神に捧げ奉る神饌の数々をば、すべて 御自身で求められています。鳥羽市国崎(くざき)では今でも鮑(あわび)を調製していますが、同書には嶋國の國前(クニサキ)の潜女(カゾキメ)が取り奉る玉貫(タマヌキノ)の鮑と書かれているのをみましても、遠い昔より鮑は神饌に用いられています。

 倭姫命は、荒天時に具えこの鮑の殻を外して、肉をよく洗浄してから台の上に載せ、丸い棒で長さが約一尺になる迄打ち続け延ばしたものを「打鮑」といい、保存食とされています。さらに締まって固くなった肉を薄刃の包丁で細長く桂剥きを行い、竿にかけて下の端を小石で吊るして陰干しにし、薄く十分に伸び切った状態にするか、或いは献上品として用いるために幅約一寸、長さ約三尺になるように青竹で延ばし仕上がりを揃え、筵に広げてよく太陽に当てた物が「熨斗鮑」であります。   

 伊勢家の傳書によりますと、「熨斗鮑の包方」として、当世は、進物に対して殆どの方が必ず魚か鳥を添えますことが、お祝の進物の仕方とされています。されども 魚や鳥を添えない場合には、干魚か、熨斗鮑百本、或いは千本を添えます。略式では熨斗鮑を二、三本に切って、紙に包んで添えます。熨斗鮑の包み方に於いては、定式というものは実はありませんが、足利将軍の室町時代頃より、今の真行草によります熨斗の包み方が生まれたのであります。

 しかし熨斗は本来は進物に添えるものではありませんので、魚や鳥を添える時には、同じ海産物ですから添える必要はありません。

  伊勢に於いては、神事が終わったときに、太神に献上した供物を参會者が集まって宴を催して戴く「直會(ナオライ)」に便利なので、いまだに鮑の干し肉をば藁縄に突き刺した串柿状のものや、一尺程に延ばした干し鮑肉の端を藁縄に結び止めて二枚一組にして吊るすようにしたものが今日でもつかわれています。これが熨斗の古形であります。

 最初は数本の熨斗鮑の束の根元を清浄な白紙で包んで神前に献上する「御饌(ミケ)の折敷(オシキ)」が、そのまま禮法にとりいれられたのが、実は「長熨斗」でありますが、これも始めは万葉包みによりし長熨斗でしたが、江戸時代になってから紙を斜めにする方式へと変わっています。

 人々は長熨斗を「目出度さを延ばし、末長く祝鮑(コトホグアワビ)」として祝賀の宴に「初饗(ウイキョウ)」の熨斗鮑を用いていますが、更に、人々が贈答用にも用いるようになりますと、目上の人には「真の位」、目上でも格式ばらなくてもよい場合、或いは仲のよい友人などには「行の位」、ごくご親しい仲間同士の場合には「草の位」の包みを用いるようになりました。

 熨斗鮑も一般庶民にとっては、当時に於いても容易たやすく手に入るものでありませんので、生魚が手に入ると、魚の鰭を切り取って戸板等に張り付けて必要なとき熨斗の代用としていましたのが、江戸時代末期の「魚の鰭」によります熨斗紋によって判ります。それ以前に於いては鯨の筋などで代用していますが、熨斗を細紙でそれらしく細工した「結び熨斗」やら、墨で書きたる「書き熨斗」が生まれてきたのであります。

 神事から生まれた熨斗なるは清浄な証しでもありましたから、熨斗を添えて人様へと差し上げることは、相手に対しては害意、逆心のない証しでありますので、手軽く用いることの出来る「貼熨斗」を生み出したのであります。

※伊勢古流という流儀は現在ではありません。明治の廃仏毀釈により消滅した流儀であり、私が最後の継承者ですが、伊勢古流には、倭比賣命の教えを遵守しており、その教えは難しいものではありません。伊勢古流に伝わっているものは、

一つには 大王家、渡会家に関する神事秘傳 
一つには 神事に関する秘事作法のすべて 
一つには 神事より起こりし礼法折形のすべて
一つには 御幣、折方、折形のおり生じる端紙、余紙を用いての紙芸品のすべて
一つには 神事に基ずく折り、結び、包みのすべて

此のうち 紙に関するものを纏めてみますと、

依代・・・ 大麻、御幣、玉串、梵天、御札、御影、紙札、守札、幟等。
形代・・・ 人形、撫物、流し雛等。
結界・・・ 注連飾り、紙垂、切り紙等。
儀礼・・・ 切紙、守護札、儀禮折紙、御神籖、紙繪馬。紙銭、宝船等。
神楽・・・ 天蓋、剪紙、切子、幡等。
新年・・・ 蓬莱、注連飾り、お飾り等。
佛事・・・ 佛事折紙、紙衣、紙花、葬具蓮華・拶出花、葬具飾、幡等。
盆供・・・ 切子灯籠、盆灯籠、盆提灯、流し灯籠、團扇、紙花等。

これらを纏めると 約八千種にも及びます。

伊勢において神事から発祥した結び、包み、折りは、すべて神事と深いかかわりあいがあり、簡単な包みでもそれにはそれなりの神事の理りを秘めています。伊勢流の礼法においては何故か門外不出を頑なに守り、伊勢貞丈による「包結記(つつみむすびのしょ)」に僅かに書かれていますが、秘事については書かれていません。もし正しい結び、包み、折りを学ぶと、市販されている既製品に誤り多いのに驚かれることでしょう。(以下略)

 

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