[まつむし音楽堂]通信

2012年8-9月号

 

 

 ●夏の暑さも終盤に近づき、夕刻には微かな秋の気配を感じながら、ふと鈴虫や松虫の鳴く声に耳を澄ますこの頃です。これも「松虫」ならではの風情かもしれません。
ビルや住宅が密集する都会にあっても、この辺りにはまだ「自然」が残っていて、蝶やトンボ、バッタの姿を垣間見ることがあるのです。というのも、大正時代から休みなく走っている阪堺上町線(チンチン電車)の線路沿いでも、鋪装されずに草木が自生している場所が少なくないからでしょう。

 ●チンチン電車の「北畠」あたりに、むかし、28歳の若さで急逝したマエストロ(指揮者、ヴァイオリニスト、作曲家)貴志康一(1909-37)のご令妹、故山本あやさんのお宅がありました。山本あやさんは、昭和50年頃宝塚へ引っ越されましたが、そのとき大切に保存していた貴志康一の自筆譜、プログラムなどの出版物、音源などを甲南学園へ寄贈されました。

貴志康一は大阪網島(桜ノ宮)で生まれ(母方の実家、国の重要文化財に指定されている吹田市の西尾家住宅という説もある)、偕行社小学校(現追手門学院=「山桜会音楽倶楽部報(PDF) 参照)へ入学しましたが、5年生のとき一家の芦屋移転とともに甲南小学校へ転校、ジュネーブの国立音楽学校へ入学する17歳のときまで甲南学園に在校したからです。

現在では甲南中・高等学校の「貴志康一記念室」に保存された多数の楽譜や音源などにより、わたしたちは、いつでもマエストロの作品にふれることができるようになりました。

 ●フルトヴェングラー率いるベルリンフィルを自ら指揮して録音した管弦楽曲「市場」や「道頓堀」にみられる優れたオーケストレーションは、日本の伝統的な旋律を西洋音楽の技法に昇華させただけでなく、雅楽や謡曲、琴、三味線に代表される日本の音楽を世界に示し、さらにクラシック音楽を、ジャズ(たとえばガーシュウィンの作品)や民族音楽にも間口を広げる役割を果たしたといえるでしょう。

 ●9月26日(水)午後、安倍晴明神社で斎行される「あべの晴明公まつり」、直会(なおらい)の会場(王子神社参集殿)では、講演や抽選会のほか「あべのカルテット」による奉納演奏も行われます。「あべの いま むかし」のテーマで、「天の原(阿倍仲麻呂の歌)」「かごかき」「赤いかんざし」ほか貴志康一作曲の歌曲などゆかりの曲を演奏します。ご来場ください。

(和田高幸)

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