[まつむし音楽堂]通信

2012年10-11月号

 

●陰陽師、安倍晴明の命日にあたる9月26日には、安倍晴明神社(大阪市阿倍野区)で晴明大祭が齊行されるのが慣例です。直会(なおらい)の会場となる阿倍王子神社参集殿では、ことしも講演、落語、抽籤会、奉納演奏会などが催され、大勢の参拝客で賑わいました。お下がりにいただいた浪速の伝統野菜、天王寺蕪(てんのうじかぶら)と勝間南瓜(こつまなんきん)にも、アベノらしい風情を感じました。有名な野沢菜は、もともと天王寺蕪の葉っぱを漬けたもので、その香ばしさはご存じのとおりですが、いっぽう勝間南瓜は北海道の夕張メロンのようなフルーティな味覚が印象的でした。

●暦を司る安倍晴明はまた、宮廷の料理を司る大膳大夫の家系。食事には歌舞音曲がつきものですが、天王寺は舞楽、雅楽の伝来地。聖俗問わず芸事のふるさとといえるでしょう。時代は下りますが、安倍季尚(1622-1708)の著した雅楽文献「楽家録」(1690、全五十巻)は、安倍家に伝わる舞曲、管弦、譜法、奏法、など口伝に属するものをまとめた百科全書のようなもの。16世紀、応仁の乱により衰亡の危機に瀕していた宮廷音楽の再興を図ろうと、また後世の雅楽奏者に役立ててもらおうと情熱を注いだ大著です。(馬淵卯三郎「楽家録の成立」参照)

●古くは小野妹子や安倍仲麻呂など遣唐使の時代、西域の舞楽や雅楽が伝来した四天王寺の周辺には、内外の楽人、芸人たちも多く住みつきました。道頓堀の芝居小屋、浪曲や河内音頭、音曲漫才や新喜劇など近来のお笑い文化も、奈良時代から1300年もの長い歴史のなかで醸成されてきたのです。

●雅楽や洋楽(西洋のクラシック音楽)の流れを汲む「上町」文化と、演歌や大衆演芸の孵化器ともなった「下町」文化が交叉しているのが「阿倍野」です。阪堺電車の路線をみても、上町線の起点はもともと「天王寺西門(さいもん)前」。廃線となった恵比須町からの支線は「阿倍野」で交わって「平野」へ向かっていたのです。アベノは、芸事のふるさと旧天王寺村(阿倍野、天王寺)の残影を、今日に伝えています。

●さて晴明大祭の9月26日、奇しくも安倍氏が自民党総裁となりましたが、これからの日本の伝統芸能はどうなりますか―。

(和田高幸)

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