●阿倍野橋交差点、東南角に総ガラス張りの巨塔「あべのハルカス」(300m)が青空を背景にくっきりとその姿をあらわしています。ホテルやオフィステナントに先駆けてこの夏、近鉄百貨店が装い新たにオープンするそうです。キタの中之島や大阪駅周辺ばかりに投資が集中するなかで、ミナミの核を担う近鉄グループの存在が今後注目されることになるでしょう。
●「ハルカス」には美術館もお目見えするとかで、アートのまち、アベノへの関心が高まるはずですが、一方では天王寺美術館が閉館、中之島の国有地跡に建設される近代美術館(仮称大阪美術館)に統合されるというのは寂しい限りです。せめて建物だけは残してもらいたいものです。
●塀で囲んで有料化される前の天王寺公園は、自由でのびのびとした雰囲気にあふれていました。美術館や動物園へ行く道筋には、植物園や図書館、野外音楽堂がありました。市音のたそがれコンサートは夏の風物詩でしたが、自前のPA機材で演歌を売り込む自称歌手の姿もありました。
●半世紀ほども前のことですが、旧天王寺図書館では当時では珍しくLP盤のレコードを借りることができました。ステレオの出現で、渇きを癒すようにベートーベンの交響曲を聴いていた中学生時代を思い出します。
●上町台地の際(きわ)に建つ天王寺美術館正面の階段から見る通天閣、そして周辺の「新世界」は、まさしく異界でした。芝居小屋、映画館、ちんどん屋、叩き売り、スマートボール、将棋、麻雀、串かつ、居酒屋、弓道場・・・を俯瞰する風景は、目くるめく異界への前奏曲ともなっていたのです。大正時代は、聖と俗を行き来する人間の本性に根ざした街づくりをしたのでしょうね。
(和田高幸)