[まつむし音楽堂]通信

2013年4月-5月号

 

●3月10日、大阪市立「なにわの海の時空館」(海洋博物館)が閉館しました。買い手はまだ見つかっていないとか。展示の目玉「浪華丸」は江戸時代の姿、材料そのままに復元された「菱垣廻船」(ひがきかいせん)ですが、"展示物"となる前に一度だけ大阪湾を試験航海したのをご存じですか。その写真(1999年7月22日泉州沖で筆者撮影)をお目にかけたいと思います。

●「バブル」の波に乗って建造された浪華丸も、そしてガラスの容れ物も、かつて大坂経済を主導した海運の象徴として、保存することばかりに気をとられたのでしょう。せっかくつくったのに、教材として後世にこれを役立てられないというのは残念です。

●デジタル化された文字と映像の記録よりも、片鱗でもよいから本物に触れられるというのが美術館や博物館、あるいは図書館のいいところです。子供たちが、本物から漂う微かな匂いを嗅ぎとりながら想像力や類推する力を養うのは大切なことです。本物は「アナログ」(連続)で3次元(立体)ですが、コンピュータの画面は「デジタル」(断片)の2次元(平面)ですから情報量には圧倒的な差があります。

●音楽も同様で、アナログのレコード盤は、溝をトレースする針がタテ、ヨコ、タカサの3次元で動くという点で優れています。波の上を進む船のように、水平面だけでなく垂直面にも含まれる情報の総量が、きっと情緒を豊かにするのでしょう。もちろん、「生」(なま)の音楽にはとてもかないませんが―。

●40年以上前、1枚2000円もしたLPレコードの購買動機となったのは、なんといってもジャケットの魅力でした。シンプルな装いのCDの売れ行きが今一つというのも、見かけの情報量の軽さということでしょうか。それでも、中身を聴いて「当たり」 があれば、うれしさは二倍です。

(和田高幸)

←「まつむし通信Topへ」

↑PageTop

 

 

▲Top