[まつむし音楽堂]通信

 2013年夏号

 

●80歳のスキ-ヤ-、三浦雄一郎氏が3度目のエベレスト登頂に成功、そして日本最高峰の富士山と三保の松原が世界遺産に登録されました。東京スカイツリ-(634m)は2年目を迎え、あべのハルカス(300m)では近鉄百貨店が先行オ-プンするなど、このところ「高い」ものが話題にのぼっています。阿倍野区の地価(路線価)も日本一の上昇率(35.1%)を記録しました。これまでは、ずいぶん低く評価されていたのでしょうね。諸物価上昇の引き金とならないようにと願っています。

●ところで学生時代、わたしは東京の6畳一間の木造アパートで暮らしていました。当時は、現在に比べると、いわゆる騒音を含めて「音」にはかなり寛容だったと思いますが、このアパートでは話し声や楽器音はほとんど筒抜けの状態でした。ですから、フル-トの練習もいい加減になっていたにちがいありません。

●自分の音が外側に「聞こえる」ということは、だれかが「聞いている」かもしれない。「聞こえないふりをしている」のか「気にしていない」のかそれはわかりませんが、練習者には「抑制」あるいは「場ならし」ともいえるような心理がはたらくのは否めません。この意識は、明らかに上達を妨げます。マナーとか社会通念といった心理的抑制とは無縁の世界にいる、幼児の上達ぶりをみればお分かりでしょう。音楽を追求するには、どんな音を出しても干渉を受けない空間が必要なのです。

●テープレコーダーが初めて市販されたのはわたしが小学生の頃のことですが、この機械に録音された自分の声を聞いて甚だ嫌悪感を抱いたことを憶えています。自分がもっている「自分のイメージ」と、他人が知覚する「自分のイメージ」は異なっているというのを知ることは容易ではありません。

●また、ありのままの自分を受け入れることも同じく容易ではないのです。この容易ならざる難関を乗り越えるには、なんらかのフィードバック装置が必要です。家庭用ビデオレコーダーの黎明期、いち早くこの機械を購入したのは歌舞伎役者だったそうですが、芸人なればこそ、自分をありのままに観察できるビデオレコーダーを最大限に活用したにちがいありません。

●最近は騒音対策で、吸音体を張り詰めて防音施工するケースがありますが、大音響のエレキ楽器の場合はべつとして、室内楽の長時間の練習には向きません。わたしたちの耳は、音源とともに反射音を聞いていることが多いのですが、反響のない音は小さく感じられるので、無理に音を出そうとして身体に負担を与えるのです。残響を重視するコンサートホールも練習には不向きです。

●練習効率のよいスタジオは、気持ちよく音が出せるばかりでなく、発生した音が正しく聞き取れるという条件を満たします。過度の反響や残響は不要ですが、適度の「響き」はたいせつです。適度の響きによって、発音や発声の知覚器官へのフィードバック効果が高まり、身体への負担が軽減するのではないでしょうか。つまり疲れにくいというわけです。

      

(和田高幸)

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