まつむし音楽堂通信

 2015年 盛夏号

 

●ロケット博士として有名な故糸川英夫氏の著書「日本が危ない」(講談社、1987)で「高齢化社会」についての記述が目に留まりました。日本では一昨年、4人に1人が65歳以上という超高齢社会に突入。すでにヨーロッパやアメリカを抜き、2020年頃の65歳以上人口は29.1%と予測されています。

●欧米にはもともと「子供が親の面倒をみるという習慣がないから、親のほうが遠慮して(“姥捨て山”のように)自ら死を選ぶという習慣もない」。「へミングウェイに『老人と海』という小説があるが、ここに登場するオールド・マンは、ただ昔を振り返っている隠居老人ではなく、自ら海に出て、巨大な魚と格闘している漁師である」「アメリカは個人主義の国だから・・・年をとればとったなりの能力があるという考え方」。「そこで職能年齢(functional age)という研究テーマも生まれてくる」。「人間の能力というものは総じて、60歳から70歳がピークであるというのが加齢学での常識になっているが、高齢者の豊かな経験がものをいうのが人間の生産活動なのである」―。

●要するに、定年後の人たちを「消費者」としてだけでなく、「生産者」とみる視点をもてということなんですね。日本のハイテクが、いわゆる高齢の熟練工によって支えられているということに大きな希望を感じさせてくれます。

●この7月ウィーンで最終合意した欧米など6カ国とイランの核協議は、エネルギーの安定供給という視点では、日本にとって朗報でした。安全保障関連法案の衆院通過にともない、英米、中露、ECとの摩擦は今後も避けられないでしょうが、日本のエネルギー需要が石油ベースであることは変わりません。

●「円安」は加速する傾向にありますが、第一次オイルショック(1973)前、「円」の変動相場制移行まで1米ドルは360円(当時わたしが留学していた豪州では1豪ドル約400円)の固定相場でした。現在の約3倍という「超円安」を背景に、1960年代の高度成長経済が実現したというわけです。

●「円安」がさらに加速すると、海外の生産拠点を国内に移す企業が増えることでしょう。これにより地方の過疎化が解消され、高齢の熟練工がアドヴァイザーとして再雇用されるかもしれません。

●「第一次産業から第二次産業、第三次産業になるにつれて、基礎体力の必要度は減少し、処理能力が要求される度合が高くなる。言い換えれば、第三次産業では年齢が高い人ほど生産効率が高くなるということだ。いま若者が第三次産業のほうにどんどん流れる傾向があるが、この方面でこそ、高齢者の能力を活用すべきではないだろうか」。  

(和田高幸)

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