まつむし音楽堂通信

 2015年 冬号

 

●東北は岩手県、花巻の飛行場から北上山地に降りた初冠雪を遠望しながら、宮沢賢治が描いた童話の世界に思いを馳せました。「注文の多い料理店」「銀河鉄道の夜」「セロ弾きのゴーシュ」・・・。なんとも西洋風でロマンチックなタイトルです。物語には、山の動物たちも主人公と並列的に登場し、会話を交わします。

●「セロ弾きのゴーシュ」では、楽団の演奏についてゆけず崖っぷちに立たされたチェロ奏者が、練習中に夜な夜な訪れてくる三毛猫やかっこう、野ねずみたちとやりとりする様子がリアルに描かれています。そして背景には、ベートーヴェンの第六交響曲(「田園」)が流れているのです。

●音(音楽)と色や形、言語などに通底しながらそれらを区別しない「共感覚」を、宮沢賢治はもっていたといわれています。音楽でも映像でも、その本質的な部分に敏感に反応する人々は、耳(聴覚)と目(視覚)といった五官の壁が薄いらしく、音を視て絵に描いたり、目で音を聴いたりできるのだそうです。

●当時の農民たちの貧しい生活を、斬新なアート感覚で止揚(アウフヘーベン)した賢治の功績は、大宇宙に横たわる銀河のように、その輝きを一段と増しているのではないでしょうか。 ところで来年は、賢治の生誕120年とか―。 

(和田高幸)

←「まつむし通信Topへ」

↑PageTop

▲Top