まつむし音楽堂通信

 2016年 初秋号

 

●広島東洋カープが25年ぶりの優勝。広島ファンの熱い思いが結実したのでしょう。カープといえば「鯉」ですが、語呂合わせで「恋」にも通じます。片思いならずとも、一途な愛情が優勝に導いたのかもしれません。

●ところで、フランク永井のヒット曲「こいさんのラブコール」(石濱恒夫作詞、大野正雄作曲)に出てくる「こいさん」は「鯉」さんでも「恋」さんでもありません。今や死語ともなった「こいさん」は、船場(せんば)ことばで「こ(小)いとさん」のこと。「いとさ(は)ん」(長女)の妹(三女、末娘)を指すことばですが、「お嬢さん」という意味でも使われます。

●「こいさん」は、藤島桓夫のヒット曲「月の法善寺横丁」(十二村 哲作詞、飯田景応作曲)にも登場します。「ほうちょういっぽん さらしにまいて たびへでるのも いたばのしゅぎょう まってて<こいさん>かなしいだろが ・・・」

●戦後の高度成長期、大阪で一旗あげようと、辛抱を重ねて精進するオトコの意気地(いきぢ)が伝わってくるではありませんか。谷崎潤一郎の「細雪(ささめゆき)」に描かれる四姉妹の舞台となる船場は、商(あきな)いの坩堝。しかし船場の没落とは裏腹に、昭和30年代の上方喜劇ブームの立役者、花登筐(はなと・こばこ)は白黒テレビ普及の波に乗り、いわゆる大阪モノを連発しました。「やりくりアパート」「番頭はんと丁稚どん」「細うで繁盛記」「道頓堀」「船場」「どてらい男(やつ)」・・・。

●村田英雄のヒット曲「王将」(西条八十作詞、船村 徹作曲)3番の歌詞、「あすは とーきょーへ でてゆくからは なにがなんでも かたねばならぬ・・・」ではありませんが、花の都トーキョーに対抗する心意気が掠れたのも、船場の衰退、つまり大阪経済の地盤沈下に行き着くのでしょうか。

●戦後の高度成長期を駆け抜けた「団塊の世代」先頭集団は、年が変われば早や70代に突入、高齢化社会がいよいよ現実のものとなります。「船場」も「こいさん」も知らない世代が大勢を占めるわけですが、昭和歌謡が地上波(TV)から消え、やがてBSから消える日も遠くないことでしょう―。やはり秋ですか。すこしさみしくなってきましたね。

(和田高幸)

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