まつむし音楽堂通信

 2018年 晩秋号

 

今回「晩秋号」は、CD『渾身のバッハ2018~バッハ生誕333年』(フルート、サクソフォン、チェンバロによる新しい取り組み)のPR(「お知らせ」参照)となります。いつものように「ですます調」ではありませんが、「平成」時代の終焉にあたり、「ライナーノート」をそのまま引用することにしました。

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●西暦2018年は、西洋ニュメロロジー(数意術)によると「11」の意味をもっている。つまり、数字を全部足し合わせて単数化(11と22は例外)することで、その意味を読み取るのである。したがって、2018年は2+1+8 → 11となるわけだが、ゾロ目の「11」は「1」の作用をつよめるだけでなく、1+1→「2」の作用もあるとされる。「2」には引き合う力と引き離す力が混在するといわれているが、いずれにしても「11」にはパワーがあり、影響力も大きいようだ。

●「9・11」(ニューヨーク航空機テロ)、「3・11」(東北大震災)などの事例もあるが、作曲家バッハが生まれた1685年も、足し上げて単数化すると7(1+6)+4(8+5)→「11」になる。2018年(11)はその年から数えて333年(「111」×3)で、神秘的なパワーを感じさせる。

●15世紀頃、いわゆる中世はルネサンスの時代。バッハが生まれた17世紀は、ドイツではルターによる宗教改革をへて、科学においても精神が重視された。いわゆる人文主義が抬頭、バッハが最古の秘密結社といわれる「薔薇十字会」に加わっていたとて特別扱いは無用という時代であった。「薔薇十字会」は古代の叡智から運命や人類の未来を読み解こうという学派で、文字や数字に大きな意味を認めた。西洋の大衆的な数字占い「ニュメロロジー」は、その名残であろう。

●グーテンベルクが発明した活版印刷術による楽譜出版の隆盛も、バッハの音楽家としての人生を後押ししたにちがいない。そればかりか、活字の出版物により古代の叡智は、暦や占いの類いも含めて、大衆の共有するところとなったのである。

●B-A-C-H(バッハ)の4文字を、変ロ-イ-ハ-ロ(シ♭-ラ-ド‐シ♮)と音名に読み替え、暗号化の初歩的な手法を用いて作曲するなどの記録も残っており、通奏低音に略式の音楽表記(数字)を用いたり、また各声部に寓意性をもたせるなど、当時の作曲家たちは、「遊び」として、古代哲学(ゲマトリアやカッバーラ)に着想を求めた形跡がある。

●着想術としての「音楽の遊び」については、数学者ライプニッツが、論文『結合術』(1666)で普遍言語の原理を考察している。数が、動物とか人間とかのさまざまな基本的概念を表すという考え方は古くからあったようだ。たとえば動物は数字の「2」で、「理性」を表す「3」と掛け合わせることで「6」(人間)となる、といったようなことだ。

●ならば、「333」は「3」×3で「9」(光輝)、つまり「理性」の極みということになろうか。さて、2018年(11)。バッハ生誕333年にあたる年に、人生の一区切りとして、このCDをリリースできたのは、なにかの偶然だろう。

●しかし、記憶をさかのぼると、高校時代の級友K君(故人)がプレゼントしてくれたバッハのフルートソナタ全集(ランパル)、そして新婚旅行で英国人の妻と共にアルプス山嶺に消えた若き天才フルーティスト、加藤恕彦(かとう・ひろひこ)のレコード(パリでのリサイタル、ライブ録音盤)に吹き込まれたバッハのフルートソナタ変ホ長調(BWV1031)などが甦る。人生の終盤に、この曲を演奏するのは恐れ多いことだが、いまは昨年喪った妻の霊前で、「あほなオトコやったなあ」と、かえってくる溜め息を待つだけである―。

(和田高幸)

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