まつむし音楽堂通信

 2018年 初夏号(續)

 

●各地で音楽祭が盛んですが、毎年5月最終週末の二日間、お屋敷町として知られる帝塚山地域を舞台に開催される帝塚山音楽祭はことし32回を数えました。元々は、短大や女子大の移転や廃校により若者たちが去った街に活気を取り戻そうというのがねらいでした。音楽の、人を引き付ける効果に注目したわけですね。

●野外やライブハウスで、近隣に気がねすることなく大音響で、いろんな音楽を聞いたり、また演奏したり・・・というシチュエーションは魅力的です。ヒッピー時代の象徴ともいえるロックコンサート「ウッドストック」(1969)には40万人が詰めかけたと伝えられていますが、音楽には、日常を超えて精神を解放する力が、きっと具わっているのでしょう。

●帝塚山音楽祭のコミュニティ会場となったウジタオートサロンでは、わたしも演奏に加わりました。道路に面したステージですから、だれでも気軽に立ち寄って聞くことができます。もちろんお金も要りませんし、特別な決まり事もありませんから、お客様の心も開放されているわけですね。車いすのお年寄りも、子供たちも、言葉の不自由な人も、身近に音楽に接することで、心から解放気分に浸ったのではないでしょうか。

●印象に残ったのは、通りすがりの若い男性が近寄ってきて、ステージの歌手に道を尋ねたことでした。ステージの上ながら、歌手はふつうに、ていねいに応対していましたが、コンサートホールでは、まず見られない光景です。道を尋ねたお客様の気楽さと、それに応えた歌手の律義さの落差に、わたしは、ただ微笑むばかりでした。

●フリーコンサートは、外国でも珍しくはないのですが、タダだからといって演奏者が手を抜くわけではありません。大概は州や自治体がスポンサーになっているからですが、お客様本位であることに変わりはありません。帝塚山音楽祭は、多くのボランティアによって支えられていますが、音楽祭のシーズンには、街全体で解放感を共有したいという願いを、各自が強くもっているから実施できるのではないでしょうか。

(和田高幸)

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