暮らし魔法館 片山学

片山公壽(日本最終神祇師)特別講義録

秘傳中臣祓い(大祓の祝詞)

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一)秘傳中臣祓

日を選び、元成尊師は、最後の講義秘伝中臣祓を行って下さいました。

祓いと言えば中臣祓が有名であり、叡尊僧正もかつて伊勢において、渡会(わたらい)家より祓の極秘伝とともに伝授されていますが、私も元成長老より伝授されたものであります。

一般に「中臣祭文(さいもん)」とも、「中臣祓詞」ともよばれ、略して「中臣祓」とよばれ、中世以降吉田兼倶が巧みに陰陽道思想を折り込み、あたかも呪文や、陀羅尼のような功徳が得られるとして、加持祈祷の場において盛んに用いられたのが、修験者・山伏等においてもて囃されるようになった原因でありますが、此の祝詞は正しくは「大祓詞」であり、その昔平安時代には六月と、十二月の晦において国中の罪穢れを祓うために、毎年朝廷で行なわれた大祓の神事の際中臣家の代表たる神官が、美しい大和言葉で巧みな言霊(コチダマ)を操るかのように、韻律でもって奏上したのであります。

大王家においてはこの祝詞奏上役を主として務めて来たのが「中臣家」であります。中臣はその文字が示すように神と人の中を取り持つ家柄であり、臣(オミ)であるとされていますが、古伝をみますと、伊邪那岐神が死穢による穢れを水滌(ミソギ)にて、身滌(ミ スス)がんとして「上津瀬は瀬速し。下津瀬は弱し」と申されてから、流れが速くなく、かと云って弱くもないほどよい流れの中津瀬において、禊祓ひをなしたる故事が、「中」なる字の始まりで、大王家と悪神(アダシカミ)との間にありて、ほどよい仲介(ナカダチ)を務めたまう人の意味で、「中」なる文字が与えられ、さらに常に神事を行うに速やかに行っていますが、今で云う事務処理能力に長けた一族よと言う意味で、大王家に従う中でも臣を特に頓に速やかと称へ「臣(トミ)」と読ませたまい、あわせて「中臣」なるを称するとあります。

古代における神事作法においては、神を崇め、神を歓待するために、ことのほか水を大切にしていますから、神への奏上文には水を取り入れて書かれています。その中でもとくに優れた奏上文としては、中臣家の秘書とされているもので、大王家の即位式、践祚(センソ)大嘗祭において必ず奏上されたという『中臣寿詞(ナカトミノヨゴト)』(藤原頼長1120~1156)の日記 台記別記所収)があります。

伊勢古流の伝来本によりますと、「神漏岐・神漏美乃命令で八百萬の神々を集め賜ひ、皇孫尊(スメミマノミコト)は皇位に就き、此の豊葦原乃瑞穂乃國を平穏に治め、高天原以來の大嘗祭を絶やす事無く行い、神饌としての瑞穂を捧げるように」と、述べられたのであります。これを受けて皇孫尊は天孫降臨をなされたのであります。

その後中臣の祖神、天児屋根命は天忍雲根神を天乃二上(アメノフタノボリ)に上らせ、大嘗祭に就いて

「神漏岐・神漏美に大嘗祭の水は宇都志國(高天原に対しての中津國で現世(ウツシヨ)の國の意)の水を高天原の水として用いるように」と申され、天乃玉櫛(高天原の神聖な玉串の意)を授けられ、

「此の玉櫛を大地に刺し、夕方より明け方まで天都祝戸乃(アマツノリトノ)太詔刀言(フトノリトゴト)(神代以來の古い神呪の意)を唱えなさい。さすれば数多くの竹の子が生え出すであろうから、その根元に天乃八井(天津水が勢いよく湧出する井戸の意)湧出るであろうから、その水を天都水(アマツミズ)として用いなさい」

と申された文意であります。此のように神饌に用いる神饌水(ミケツミズ)において、中臣家では優れた文章を作成していますが、中臣大祓においても最初は平易な文章でもって、祓の由来とその成果について、

「神漏岐・神漏美乃命令で八百萬の神々を集め玉ひ、皇孫尊(スメミマノミコト)に豊葦原瑞穂國を統治を委任し、荒振神々を平定した後大倭國に政事(マツリゴト)を行う宮殿を建て、多くの役人と共に國を平安に治められているが、役人の中には過ってす罪を犯す場合もあり、その罪も天津罪のように重罪もあれば、一般的な國津罪もあり、それによって悪しき凶事(マガツコト)が起きるなれば、高天原の神事(カミツワザ)に基づき、罪を移す祓への呪術(ワザ)である天津金木と天津菅曾を行ひ、大中臣は天津祝詞の祓詞を宣(ノ)べなさい。さすれば天津神は天の磐戸を開かれるでしょうし、國津神は高山・低山(ヒキヤマ)に登られて共に祝詞の祓詞をお聞き届けられるでしょうから、神々のお聞き届けにより天下四方の國々においては罪と云う罪は一切存在する事は無いであろう」

と書き表しています。

古事記、日本書紀にはしばしば「祓い」が行なわれた事が書かれていますが、これには深い意味があります。「穢れ」の「ケ」は霊の事であり、「カレ」は枯れであり、合わせ霊の力が不潔な物に触れたために弱まっている事を表しています。古来より死ぬ事を「みまかる」といいますが、これは霊の力が弱まりやがて霊が肉体より離れるので「霊退(ミモカル)」なる造語が生じたのであります。そこで偉大な神霊を己が身に頂くために弱まった霊の状態でなく、充実した霊の状態にするために死を厭い、穢れを忌み、神前に至るまでに必ず祓を行うようになり、祓によって身も心も浄化し、己が霊の力を増すことによって、偉大なる神の徳を頂こうとしたのが祓の起こりでありますが、これが小さな個人的な祓いでなく、国全体の罪・穢れを祓い去り、民人のすべてが、清き明るき本来の心に立ち帰り、各人のなさればならぬ努めを果たし、国全体が平和で富み栄えるようにとの神事が実は『大祓(オホハラヘ)』の儀式であります。

この時に用いられるのが、『大祓詞(オホハラヘノコトバ)』であります。宮中の祭司を司る中臣氏が、大祓えの儀式の時に宣読したので、普通一般には『中之祭文』とよばれていますが、日本書紀によれば天武天皇四年(六七五)に諸社に幣を祭るとあり、天武天皇七年に天下に大祓いをするとありますから、天武天皇の始めまでには此のような形式だと推量されます。大祓いを行う為に、

 

一、 神事に参加している文武百官に対し始まりを告げる言葉。
二、 多くの神事参加者によるために、祓へに遺漏があってはならないとしての追加文。(若し遺れる罪あれば科戸の風が悪しきものを吹き払う文意)が書き加えられていますが、

さらに平安時代以後になって今日の中臣祓の原型である、

一、 始まりの言葉。
二、 大祓ひで浄める趣旨。
三、 天津宮事と、天津祝詞の太祝詞により罪は祓われる。
四、 遺れる罪は、科戸の風が吹き祓ひ祓ひ浄められる。
五、 祓戸四神により、祓ひ清められた罪咎は消滅される。
六、 神事の後始末を命じた言葉。

による祝詞形式となっていますが、鎌倉時代以降『中臣之祓』ともよばれています。

いずれにしても天智天皇の頃に作成された優れた祓文であり、神事においては必ず神前において奏上される大切な祝詞であり、今日の定形としては、

一、 先ず最初に集い来れる人に読み聞かせる為の開始を告げる詞。
二、 集い来れる人々の今まで犯せし罪咎を祓浄める趣旨を述べる詞。
三、 建国の由来を述べ、若しも国内において国民が過ち犯せる罪穢れによって、禍(マガツコト)が生じたなれば、古伝の祓神事を行うことにより、祓を司さどる「祓戸神々」が忽ちに発動なされ、一切の罪穢れを消滅させて下さると言う詞。
四、 大中臣の天津祝詞による祓詞を、天津神は天の磐門を押開き、國津神は高山、短山(ヒキヤマ)に登られて、聞き届けられる為に罪という罪は残らないはずだが、それでも遺罪(ノコレルツミ)あれば、科戸の風が天の八重雲を吹き放つように、朝夕の風が霧を吹き掃うので遺罪はあり得ないとの祓へ詞。
五、 瀬織津比賣(セオリツヒメ)の神は、天下四方の罪という罪をば残らず集めて大海原に持ち出でさせ玉へば、速開都比賣(ハヤアキツヒメ)の神は、これを遥か遠くの海上に運び去り呑み込まれ玉ふ。吹戸主(イブキトノヌシ)の神も現れて、根の国、底の国に一気に吹き払われ玉ひ、最後には速佐須良比賣(ハヤサスラヒメ)の神が遺りしすべての罪という罪、穢れを無の世界に持ち去られるので、国中の民の罪も穢れもすべて消滅することよと、此の六月の晦の夕刻に於いて天皇自ら大祓なされしを告ぐ詞。
六、 最後に四国(ヨクニ)の卜部は集まりし祓物を捨て去るように宣べ玉う詞。

『古事記』によりますと、古代大王家の后はすべて神事祭祀権を持っていましたから、日靈女として神に使えるものおおく、中でも大后息長帯日賣命(オホキサキ・オキナガタラシヒメノミコト)なる神功皇后は、帰神之法(カムガカリノホウ)に天性的なものがあり、神は絶対的なものとされていましたが、仲哀天皇は神を信ぜず皇后のような託宣はなかば否定的でありましたので、その結果が自らの命を縮められることになり、崩御の時は国から祓物である大奴佐を取り、種々の罪を求めて国全体を祓い清める大祓いを行い、神の教えを請われたとあります。

中臣祓いはあくまでも純然たる神道の立場で作成されていますが、此のように数次に渡って加筆訂正され、完成された祓ひの祝詞であります。これを密教の立場で神道を説こうとする僧侶が、伊勢の地に於いて数多く現れた結果として、平安末期から鎌倉時代の始めにかけての文章で、空海の撰述と假託されている『中臣祓訓解』がありますが、これも数次に渡る加筆がなされています。さらに中臣祓には現在三つの流れがありますが、何れも最後の部分が異なっているので、すぐに判ります。

 

一つには 古伊勢渡會家の流れで、

罪止云(ツミトイフ)罪咎止(ツミトガト)云咎波(イフトガハ)不在物曾登(アラシモノソト)。祓給(ハラヘタマヒ)清給事乎(キヨメタマフコトヲ)。八百萬神等(ヤオヨロズノカムタチ)平安所(タイラケク)聞食申(キコシメセトモウス)と書かれており、

 

一つには 神祇白河伯王家の流れで、

天下(アマガシタ)四方爾波(ヨモニハ)自今日始弖(ケフヨリハジマリテ)罪止云布罪波(ツミトイフツミハ)不在止(アラジト)高天原爾(タカマカハラニ)耳振立(ミミタケ)聞物止(キクモノ)馬牽立弖(ウマヒキタテ)聞物(キクモノ)今年(コトシノ)六月(ムナヅキ)晦日(ツゴモリノヒノ)夕日之(ユウヒノ)降乃(クタチノ)大祓爾(オホハラヒニ)祓給比(ハラヒタマヒ)清給事乎(キヨメタマフコトヲ)。諸聞食(モロモロキコシメセト)止宣(ノル)。四国(ヨクニノ)卜部等(ウラベドモ)大川道爾(オホカワヂニ)持退出弖(モチマカリイデテ)祓却(ハラヒヤレ)止宣(トノル)。

自今日始弖(ケフヨリハジメテ)罪止云(ツミトイフ)罪波不在止(ツミハアラジト)。高天原仁(タカマカハラニ)耳振立(ミミフリタテ)聞物(キクモノト)馬牽立弖(ウマヒキタテテ)。今日乃(ケフノ)大中臣乃(オホナカトミノ)祓仁(ハラヒニ)祓給比(ハラヒタマヒ)清目給事乎(キヨメタマフコトヲ)諸聞食度(モロキコシメ セト)宣布(ノブ)。

 

一つには 吉田神道の流れで、

祓賜比(ハラヒタマヒ)清賜布(キヨメタマフ)事於(コトヲ)祓戸(ハラヘトノ)八百萬乃(ヤオヨロズノ)神等(カムタチ)左男鹿乃(サオシカノ)八乃耳乎(ヤツノミミヲ)振立天(フリタテテ)聞食止(キコシメセト)申壽(モウス)。   

亜流吉田神道における吉田兼倶の、半ば強引な伊勢神宮の乗っ取り計画に対して、必死な防戦を強いられた伊勢渡會家において、渡會家独自の中臣神事祓作法を行っていますし、大王家皇室内の神事作法を一手に掌握していた神祇白河伯王家も、神祇権を奪取せんとする吉田神道を無視し続け、あくまでも古式に基づく神道を護持せんとして、白河家独自の中臣祓神事を行っていますが、我が真言宗に置いても、弘法大師の手によると伝えられている独自の中臣祓文が、明治まで渡會家に秘蔵されていたとして、元成師は、次の秘文を伝授して下さいました。

 

中臣[祓]禾偏に修正

遍照金剛[木巽]

高天原爾(タカマカハラニ)。神留坐(カムヅマリマス)。皇御親(スへムツ)。神漏伎都言志(カムミロギトマヲシ)。神漏美乃(カムロミノ)尊以弖(ミコトモテ)。八百萬神達乎(ヤホヨロヅノカムタチヲ)。我皇孫尊乎(アガスメミマノミコトヲ)。豊葦原乃(トヨアシハラノ)水穂之國乎(ミヅホノクニヲ)。安國止(ヤスクニト)。荒振神等乎(アラブルカムドモヲ)。言問志仁問(コトトヒシニトヒ)磐根樹(イハネコ)。立草(タチクサ)。栢葉乎(カケハヲ)。語止弖(コトヤメテ)。天之磐座乎(アメノイハクラヲ)。押放(オシハナチ)。天之八重雲乎(アメノヤヘクモヲ)。伊豆乃(イズノ)。千別爾(チワキニ)。千別弖(チワキテ)。而天降座依(アマクダリマシマシテ)。四方之國爾(ヨモノ クニニ)。大倭(オホヤマト)。日高見之國泥(ヒタミノクニデ)。下津磐根(シタツイハネ)。宮柱太敷立(ミヤハシラフトシキタテ)。高天原爾(タカマガハラニ)。千木高知弖(チギタカシリテ)。美頭乃御舎爾(ミヅノオノヤニ)。天之御蔭(アメノミカゲ)。日之御蔭都(ヒノミカゲト)。坐弖(マシマシテ)。天之益人等我(アメノマスヒトラガ)。雑々罪都云事(クサグサノツミトイフコト)。天津罪止(アマツツミト)。許々太久乃罪(ココダクノツミ)。法別弖(ノリワケテ)。國津罪(クニツツミ)。生膚断(イキハタタチ)。死膚断(ナソシハノタチ)。白人(シラヒト)。胡久美乎(コクミヲ)。己母與(モカト)。子都犯罪(コトオカセルツミ)。子都(コト)母犯罪(モトオカセルツミ)。畜犯罪(ケダモノ オカセリツミ)。昆蟲乃災(マジモノノワザワヒ)。高津神乃災(タカツカミノワザワヒ)。高津鳥乃災(タカツトリノワザワヒ)。畜仆志(ケモノタフシ)。蟲物(マジモノ)。為罪(セルツミ)。天津宮事(アマツミヤゴトヲ)。天津金木(アマツカナギ)。千座置座爾(チクラノオキクラニ)座弖(マシマシテ)。天津菅麻(アマツスガソ)。八針爾(ヤツハリニ)。取辟弖(トリサキテ)。天津神波(アマツカミ)。天磐門乎(アマノイハクラヲ)。押披弖(オシヒラキテ)。國津神波(クニツカミハ)。高山末(タカヤマノ スエ)。短山伊恵理爾(ヒキヤマノイエリニ)。所聞食志(キコシメシ)。科戸之風乃(シナトノカゼノ)。大津邊爾(オホツベニ)居留(ヲレル)。大船乎(オホブネヲ)。繁木本乎(シゲキガモトヲ)。燒鎌乃敏(ヤキカマノトキ)。鎌以弖(トガマヲモチテ)。打掃(ウチハラヒ)。速川能瀬(ハヤカハノセ)。瀬織津比[口羊]尊(セオリツヒメノミコト)。八百萬道放(ヤホアイニハナチ)。速開都[口羊)尊(ハヤアキツヒメノミコト)。気吹戸主尊(イフキトヌシノミコト)。根國底之國(ネノクニソコノクニ)。速佐須良比[口羊](ハヤサスラヒヒメノミコト)。解事除岐玉邊(トクコトヲノゾキタマヘ)。

 

西大寺菩薩流神道叡尊僧正御自身が伊勢を敬慕なされ、その上渡會家に於いて、正統中臣祓を伝授されていますが、そのときの中臣祓の秘文言に、

 

天原爾(タカマノハラニ)。神留坐(カムズリマス)。皇親(スメラガムツ)。神漏伎神漏美乃(カムロキカムロミノ)。命以弖(ミコトモチテ)。八百萬神達乎(ヤホヨロズノ カムタチヲ)。神集(カムツトヘ)。集賜比(ツトヒタマヒ)。神議(カムハカリ)。議賜弖(ハカリタマヒテ)。我皇孫命波(アガスメミマノミコトハ)。豊葦原乃(トヨアシハラノ)。水穂之國乎(ミズホノクニヲ)。安國止(ヤスクニト)。平久(タイラケク)。所知食止(シロシメセト)。事依志(コトヨサシ)。奉伎(タテマツリキ)。如此寄志(カクヨサシ)。奉志(マツリシ)。

國中爾(クヌチニ)。荒振神等乎波(アラフルカムドモヲバ)。神問志爾(カムトハシニ)。問志賜(トハシタマヒ)。神掃(カムハラヒニ)。掃賜比弖(ハラヒタマヒテ)。語問志(コトトヒシ)。磐根樹立(イハネキタチ)。草之垣葉乎毛(クサノカキハヲモ)。語止弖(コトヤメテ)。天之磐座押放(アマノイハクラオシハナシ)。天之八重雲乎(アメノ ヤヘクモヲ)。伊豆乃(イツノ)。千別爾(チワキニ)。千別弖(チワキテ)。天降依志(アマクダシヨサシ)。奉支(マツリシ)。如此依左志(カクヨサシ)。奉志(マツリシ)。

四方之國中登(ヨモノクニナカト)。大倭日高見之國乎(オホヤマトヒタカミノクニヲ)。安國止(ヤスクニト)。定奉弖(サダメマツリテ)。下津磐根爾(シタツイハネニ)。宮柱太敷立(ミヤハシラフトシキタテ)。高天原爾(タカマカハラニ)。千木高知弖(チキタカシリテ)。皇御孫之命乃(スメミマノ ミコトノ)。美頭乃(ミツノ)。御舎仕奉弖(ミアラカツカヘマツリテ)。天之御蔭(アメノミカゲ)。日之御蔭止(ヒノミカゲト)。陰坐弖(カクリマシテ)。安國止(ヤスクニト)。平氣久(タヒラケク)。所知食武(シロシメサム)。國乃中爾(クヌチニ)。成出武(ナリイテム)。天之益人等我(アメノマスヒトラガ)。過犯家牟(アヤマチオカシケム)。雑々罪事波(クサクサノツミコトハ)。天津罪止(アマツツミト)。畔放(アハナチ)。溝埋(ミゾウメ)。樋放(ヒハナチ)。頻蒔(シキマキ)。串刺(クシサシ)。生剥(イケハギ)。逆剥(サカハギ)。屎戸(クソヘ)。許々太久乃(ココダクノ)。罪乎(ツミヲ)。天津罪止(アマツツミト)。法別氣弖(ノリワケテ)。國津罪登八(クニツツミトハ)。生膚斷(イキハダタチ)。死膚斷(ナオニタチ)。白人(シラヒト)。胡久美(コクミ)。己母犯罪(オノガモヲオカセルツミ)。己子犯罪(オノガコヲ  オカセルツミ)。母子犯罪(モトコトオカセルツミ)。子母犯罪(コトモトオカセルツミ)。畜犯罪(ケダモノオカセルツミ)。昆虫乃災(ハフムシノワザワヒ)。高津神乃災(タカツカムノワザワヒ)。高津鳥乃災(タカツトリノワザワヒ)。畜仆志(ケモノタオシ)。蟲物為罪(マジモノセルツミ)。許々太久乃(ココタクノ)。罪出武(ツミイデム)。如此出波(カクイデハ)。天津宮事以弖(アマツミヤコトモチテ)。大中臣(オホナカトミ)。天津金木乎(アマツカナキヲ)。本打切(モトウチキリ)。末打斷弖(スヘウチタチテ)。千座置座爾(チクラノオキクラニ)。置足波志弖(オキタラハシテ)。天津菅麻乎(アマ ツスガソヲ)。本苅斷(モトカリタチ)。末苅切弖(スヘカリキリテ)。八針爾(ヤツハリニ)。取辟弖(トリサキテ)。天津祝詞乃(アマツノットノ)。太祝詞事乎(フトノットコトヲ)。宣禮(ノレ)。如此宣羅波(カクノラハ)。天津神波(アマツカムハ)、天磐門乎(アメノイハトヲ)。押披弖(オシヒラキテ)。天八重雲乎(アメノヤヘクモヲ)。伊豆乃(イツノ)。千別爾(チワキニ)。千別弖(チワキテ)。所聞食武(キコシメサム)。國津神波(クニツ カミハ)。高山末(タカヤマノスヘ)。短山之末爾(ヒキヤマノスエニ)。登坐弖(ノボリマシテ)。高山伊恵理(タカヤマノイヘリ)。短山伊恵理乎(ヒキヤマノイヘリ  ニ)。掻別弖(カキワケテ)。所聞食武(キコシメサム)。如此所聞食弖波(カクキコシメシテハ)。諸罪止(モロモロノツミト)。云布罪波(イフツミハ)。不在止(アラシト)。祓申志(ハラヒモフシ)。 清目申事乎(キヨメモウスコトヲ)。科戸之風乃(シナトノカゼノ)。天八重雲乎(アメノヤヘクモヲ)。吹掃事之如久(フキハナツコトノゴトク)。朝之御霧(アシタノミキリ)。夕之御霧乎(ユフヘノ ミキリヲ)。朝風夕風乃(アサカセユフカセノ)。吹掃事如久(フキハラフコトノゴトク)。大津邊爾(オホツヘニ)。居大船乎(ヲルオホフネヲ)。舳綱解放(ヘツナ トキハナチ)。艫綱解放弖(トモツナ トキハナチテ)。大海原爾(オホウナハラニ)。押放事如久(オシハナツコトノゴトク)。彼方之繁木本乎(オチカタノシゲキガモトヲ)。燒鎌乃(ヤキカマノ)。敏鎌以弖(トカマモチテ)。打掃事如久(ウチハラフコトノゴトク)。遺禮罪波(ノコルツミハ)。不在止(アラシト)。祓給比(ハラヒタマヒ)。清給事乎(キヨメタマフコトヲ)。高山乃末(タカヤマノスヘ)。短山末與利(ヒキヤマノスエヨリ)。佐久那谷爾(サクナタニゝ)。落多支都(オチタキツ)。速川能(ハヤカワノ)。瀬坐須(セニマス)。瀬織津比[口羊]止(セオリツヒメト)。云神(イフカミ)。大海原爾(オホウナハラニ)。持出奈牟(モチイタシナム)。如此持出往波(カクモチイタシイナハ)。荒鹽之鹽乃(アラシホノシホノ)。八百道乃(ヤオジノ)。八鹽道之(ヤシホジノ)。鹽乃(シホノ)。八百會爾(ヤオアイニ)。坐須(マシマス)。速開都[口羊]止(ハヤアキツヒメト)。云神(イフカミ)。持加々呑弖牟(モチカカノミテム)。如此可々呑弖波(カクカゝノミテハ)。氣吹戸坐須(イフキトニイマス)。氣吹戸主止(イフキトヌシ)。云神(イフカミ)。根國底之國爾(ネノクニソキノクニゝ)。氣吹放弖牟(イフキハナチテム)。

此氣吹放弖波(カクイフキハナチテム)。根國底之國爾(ネノクニソキノクニゝ)。坐(マシマス)。速佐須良比[口羊]登(ハヤサスラヒヒメト)。云神(イフカミ)。持佐須良比失弖牟(モチサスラヒウシナヒテム)。如此佐須良比失弖波(カクウシナヒテハ)。今日以後(キョウヨリノチハ)。罪止(ツミト)。云罪咎止(イフツミトガト)。云咎(イフ トガハ)。不在物曾登(アラシ モノソト)。祓給清給事乎(ハラヘタマヒキヨメタマフ コトヲ)。八百萬神等(ヤオヨロズノカムタチ)。平安所聞食申須(タヒラケクヤスケク。キコシメセト。マホス)。

 

叡尊僧正の菩薩流神道講傳を受けた受者の中において、更に役行者直傳の中臣神道を研究なされ、加筆された古式に基づく中臣祓の秘伝が、「中臣神事極秘傳」として、葛木神道に残されたのであります。もちろん慈雲尊者も紐解いておられ、後に尊者の大祓にまとめられています。元成尊師も、両部神道を学ぶものにとって、必要不可欠の伝授録として講伝されたのであります。


二)訓解中臣祓

「中臣神事極秘伝菩薩(略字)」

菩薩流神道に於ける、中臣神事極秘傳に、「傳に曰く。叡尊僧正 伊勢にて授かりし後秘傳を纏めしものの中にあり」。

夫れ和光同塵垂跡之起りを、世の物知人のなかに、眞の神事知らざるもの多く、彼等残せしもの誤り多く、その本意は神意に遠く隔つ。曾て空海大阿闍梨の名の許に「中臣祓訓解決」を、一沙門書き遺せしものに、更に加筆修正し、後世に問はんとするなり。

中臣祓の天津祝詞。太祝詞は伊弉諾。伊弉册の尊が維神(カンナガラノ)道を宣べ玉ふを、天児屋根の命が諄き玉ふなり。是れ即ち神道の根源にて已身清淨之儀を示す。大自在天の梵言に於いても、三世諸佛の方便は、一切衆生の福田にて心源広大の智恵なれば、本來清淨大教の元にして怖畏陀羅尼なれば、罪障懴悔の神咒なり。寔(マコトニ)最勝最大之利益にて、無量無邊の濟度なれば、世間出世之教道抜苦與樂之隠術なり。天地は與に長く存在し、将(マサ)に日月と久しからん。甞(ムカシ)天地開闢の初めに於いて神寶日出之時、法界法身心王の大日如來無縁悪業衆生を度せんが爲に、普門方便の智恵を以て蓮華三昧の道場に入りて大清淨の願ひを發し、哀愍慈悲を垂れ化應擁護之姿を現し、閻浮提に蹟を垂れ符璽を魔王に請ひ降化の神力を施し玉ふ。鹿島。香取兩明神は八荒(國の内外の意)に於いて驛(ツカハシ)、慈悲の檄を十方に頒(ワカチ)玉ふ。以降(シカシヨリ。コノカタ)、忝なくも太神以外には佛教に異なる儀式を顕し佛法を護る神兵となし 内外の詞(コトバ)異なると雖も同じく化道の方便なり。神は則ち諸佛の魂、佛は即ち諸神の性(ココロ)なり。肆(カルガユエニ)に經に曰く。佛は不二の門に住して常に神道に跡を垂れると云うなり。惟(マコトニ)知るべし。諸佛の通力を以て轉倒の衆生をして所求の願力を以て、佛道に於いて入らしむ。

此れ則ち善巧方便にして大慈大悲之實智なり。色心不二平等利益之本願なり。茲によりて、即ち神祇之験(マコトヲ)を現し、即ち神民之威を施す。一期の苦愁を消し、百年の榮樂を決む(サダム)。當に(マサニ)五重の煩惱を離れて三界の梵籠(ボンロゥ)を出て、眞如の妙理を悟り、即ち密嚴の華臺を證する事なり。凡そ(オヨソ)此の祓の詞(コトバ)は最極大神咒なり。一切の願いを満す事は疾風の如し、所求に従がって圓満なる事自在天の如し。然れば則ち十界平等之本道諸尊大悲之法門、法爾成道の道相(ヨソオイ)にて諸天三寶の秘術なり。上智の前には諸尊瑜伽の教法たり。下愚の前には便(スナワ)ち縁覺聲聞の良因なりと。

祓ひは此れ神代の上に曰く。之を詳細にみるに、此れを波羅賦(ハラフ)と見ると云ふ。その實を考校(カンガフルニ)、智恵の神力を以て怨敵四魔を破る祭文なり。舊事本紀に曰く。三世の怨敵は境ひを隔てて近ずかず。萬人(タミノ)の悪しき念は境を越えて遠滅す。凡そ(オヨソ)三災七難は温みで以て雪を消すが如し。百毒九横は水を以て火を消すが如し。萬の悪千の害は火を以て毛を燒くが如きなり。然れば 則ち悪鬼に萬里に別けはしり、七難近(マノアタリ)に起らず。堅牢五常を催し、萬福來りて近ずき生ず。此を以て一座の祓は百日之難を除き、百座(モモザ)之祭文には千日之咎を捨る(マヌカル)と云ふ。

大麻の體相は自性清淨之三摩耶普現三昧の形を表す。夫れ忍辱祝詞は袍(ナオシヲ)着け、正直の笏を把りて而て三毒七難を祓ひ、五濁の八苦を洗ふ。祭服は則ち忍辱の鎧なり。群賊を拒(シリゾケ)、笏を把れは 則ち智恵の剣(ツルギ)となる。衆敵を威(オドス)。其の形直くにて其の事すなほなり。皆是れ悪魔降伏之神兵の具なり。諸神は納受を垂れて方便の神力を施す。定慧の弓箭を彎(ヒキ)、智慧の剣刀を擢(ヒッサゲテ)、輪王釋梵の使ひ東西に馳せ、天魔外道の等(ヤカラ)南北に逃ぐ。

三界所有の天王天衆(アメノシュウ)。日月五星十二神將七千夜叉神二十八宿天龍八部衆は和光同塵なり。利益衆生の誓願をなして掌を合わせ幣帛をなす人等(トモガラハ)、生々に貴き事は天地の恩(メグミ)には過ぎず。又世々に忝なき者は神佛の徳に越えたるはなし。仍て(ヨッテ)此の恩(メグミ)を封ぜんが爲に、解除(ハラヘ)事秘祭文を以て諸の咎を祓ひ淨め、即ち阿字本不生之妙理に歸して、自性精明之實智を顯す。而るに諸法に於いては淨不淨の二法を出でずして、有爲は不淨之實執なり。無爲は清淨之實體なり。是れ則ち吾が心生なり。禪定を修すれば其の心漸く清淨となる。茲によりて謹請再拝して、而るに七座(トナクラ)之を宣ぶれば無明住地之煩惱の泥(ひちりに)穢されず。向うに流れ恭敬して七度之を觸れは、能く池水の浪潔くして心源清淨なり。肆(カルガユヘニ)に十煩惱之網を離れて三有之際に纏わること無し。此れを名ずけて解除(ハラヘト)云ふ。此れ則ち滅罪生善頓證菩提の隠術(ヨソオヒ)なり。吾れ聞く。天神地祇を敬い祭りて以て清浄(イサギヨキ)儀益(ミコトノリヲ)懐給ふ(ナレシメタマフ)。故に不浄物(キタナキモノ)は鬼神の悪(ヒソム)所なり。

 

天津靈(アマツツミオヤ)を神と曰ひ、地津靈(クニツミオヤ)を祇と云ひ、人魂(ナカツミタマヲ)を鬼と號す。所謂天神(アマツカミ)は上(タカク)して、人魂(ナカツミタマハ)は中(タイラケク)して、地祇(クニツカミ)は下(ヒクシ)とは是れなり。

 

聖朝(アメノアシタ)勅語辭(シロシメス。ハカリコトニ)、災を攘(ハラヒ)福を招く事。必ず幽冥に憑(ヨリ)、神を敬ひ佛を尊ぶ事、清淨を先と爲すと云ふなり。
經に曰く。

己が心念清淨なれば、諸佛此の心に存す(ウツリマス)の文ありと。
清淨は則ち己が清淨之智の用(ハタラキ)、寂静安樂の本性なり。不淨は便(スナハ)ち生死輪廻之業因にして、無限大城之業果なり。故に不淨の中には生死の穢泥(エデイ)太(ハナハ)た深し。

 

佛説ひて言く。垂迹の誡むる所の諸佛の顯戒に、諸神の誡に随はば、諸佛の戒に順ず。或ひは齋月祭日の精進を勸め、或いは往詣(オウケイ)運歩の貴賎等(キセンノトモガラ)は、若しくは一華一香を敬手(ササゲテ)三寶を供養し、若しくは蘋(艸繁)(ヒンピン・神の供物の意)。薀藻(ウンソウ・海藻等の意)を以て、神祇に備え祀りし奉る等(トモガラ)、斯の如き者等(モノタチハ)、慚(カ)之を以て縁と爲して内法に入れ導き、一佛淨土の縁を結んで生死之海(ワダツミ)を度(ワタ)り、涅槃之岸に附さ令めん。若し又衆生にして善無には、我れ善を以て衆生に施さん。悟り無きには、我れ悟りを以て衆生に向しめして内證を照さんと云ふなり。

 

定めて知り。是の人は三世諸佛の智恵を持ち、二世の所求圓満する事を得ると云ふ。不可説、不可説は説を見る。是れより 東方八十億恒河沙の世界を一の神國あり。名づけて大日本國と云ふ。神聖其の中に座す。名づけて大日靈貴(オホヒルメノムチ」と曰ふ。當(マサニ)知るべし。此の國に生を受く、衆生は佛の威神の力を承りて、諸佛と共に其の國に遊ふ。是れ則ち佛の説くところなり。是れ我が言にあらず。

中臣祓序文に曰く。
【原文】 高天原爾
【訓戒】 色界乃初女禪天梵天乃衆也。三光天波南檐浮樹乃麓高岐御蔵是禮也。五臓乃中成留大蔵也。故仁萬寶於納女留所也。
【口傳】 高天原爾(タカマカハラニ)とは、八萬四千の神々の中でも位い高き神々が、神事(カムツワザ)を行う爲に集まり來る所と傳えられし所なり。古來高天原とは蒼々たる長天を云ひしなり。
【原文】 神留坐
【訓戒】 天照太神。豊受太神。高皇産靈神。神皇産靈神。津速産靈神。正哉吾勝尊。伊弉那承諾尊等乃神々坐須所也。
【口傳】 神留坐(カムヅマリマス)とは、古來高天原に於いては、多くの神々が定められし所に住み玉ふ所なれば、そこに自ずから序列が生じ、神祇の道も開けしと傳ふ。されば高天原に於いて神事(カミツワザ)を執り行いしおりは、自ずと座り玉ふ座席(トコロ)定まりたりと。されば天之御中主神(アメノミナカノヌシノカミ)。高皇産霊神(タカミムスビノカミ)。神皇産霊神(カミムスビノカミ)。諸神の祖として座の上位に座り玉ふなり。
【原文】 皇親
【訓戒】 天照太神。天之御中主神。豊受神坐須也。天孫尊乃御親乃神也。高皇産靈神。神皇産靈神毛同也。
【口傳】 皇親(スメラガムツ)とは。天子を敬ひて皇親(スメムツ)と稱し、四海を統御し玉ふ義なれど、此処では伊弉諾尊(イザナギノミコト)。伊弉冉尊(イザナミノミコト)。天照太神(アマテラス オオミカミ)。正哉(マサヤ)吾勝尊(アレカツノミコト)。天孫尊(アメノ ミマノミコト)等(タチ)が、大王家の祖神を指し續いて座り玉ふなり。
【原文】 神漏技神漏美乃
【訓戒】 神乃御親於謂也。神皇産靈乃神の御親。津遮産靈神於言也。
【口傳】 神漏伎神漏美乃(カムミロギ カムロミノ)とは。津速産靈神ツ(ハヤヒノム スビノカミ)。津遮産靈神(ツサキリツムスビノカミ)の事にて、神皇産靈神(カミムスビノカミ)の御親にて、新たなる物を産み出だす神なれば續いて座り玉ふなり。
【原文】 命以弖
【訓戒】 謂留皇親之勅命於以。八百萬神達於召志玉布也。
【口傳】 命以弖(ミコトモテ)とは。皇親(スメムツミオヤ)の勅命(ミコトノリ)を以て、八百萬の神々を召し玉ふ事なれど、更に命(ミコト)なる理(コトワリ)は、物は一つでは成り立たず、陰と陽とが相ひ働きて成り立つ物なれば、此処より天の作用(ハタラキ)、則ち天命と云ふなり。天命の濫觴は伊弉諾(イザナギ)伊弉冉尊(イザナミノミコト)にて日本書紀巻第一の一書に、豊葦原の千五百秋(チイホアキ)の瑞穂(ミズホ)の地(クニ)有り。汝(イマシ)往(ユ)きて脩(シラス)べし。と宣ひて迺(スナハチ)天瓊戈(アマノヌホコ)を玉ふと有り。瓊戈は傳國の璽シルシにて節刀の如き役目なすと云ふ。
【原文】 八百萬神達乎 
【訓戒】 梵王帝釋无量乃天子。四大天王。无量乃梵王。八萬四千乃神也。
【口傳】 八百萬神達乎(ヤホヨロヅノ カミタチヲ)とは。神道に於いては善悪諸神等二萬八千の神々の使者を云ひ、佛家に於いては 梵天帝釋無量の天子。四大天王。無量の梵天の八萬四千の神々を云い、大嘗祭の如き神事(カミツワザ)は、全ての神々を招き玉ひしと。神々の数多きは主なる神に、更に伴神(トモノカミ)多く有り、辺津鏡(ヘツカガミ)の成り出でませる數を古來云ひたり。
【原文】 神集。集賜比。神議。議賜弖。我皇孫命波。
【訓戒】 天津彦火瓊瓊杵尊也。天照太神太子。正哉吾勝尊太子也。御母波高皇靈乃御息女。萬幡豊秋津比賣命也。
【口傳】 神集(カムツドヘ)。集賜比(ツドヘタマヒ)。神議(カミハカリ)議賜弖(ハカリタマヒテ)。我皇孫命波(アガスメミマノ ミコトハ)。高天原に於いても、神事(カミツワザ)を行う前には、先ず神々を呼び集め玉ふ儀式ありて、その後に於いて神議を行い玉ひしと傳えられしなり。此の時に於いて高皇産靈尊(タカミムスビノ ミコト)の女(オンムスメ)。萬幡豊秋津姫命(ヨロズハタトヨ アキツヒメノ ミコト)と。天照太神(アマテラス オホミカミ)の太子(タイシ)正哉吾勝尊(マサヤアカツノミコト)との間の太子(タイシ)天津彦火瓊々杵尊(アマツヒコホノニニギノミコト)が、我皇御孫(アガスメミマゴ)と定められしと。我とは親しみをこめた辞(コトバ)と外ならぬ義と有り。皇(スメ)とは神の血筋を引きたる者と云ふ義なり。
【原文】 豊葦原乃。瑞穂乃國乎
【訓戒】 大八州乃神。倭乃國也。陽谷輪王乃所化之下。玉藻皈所之嶋也。楠樹日於蔽天浦於闇久須。之於銘毛天南檐浮提止曰也。瑞穂國止波肥饒豊富之國奈留於謂布也。
【口傳】 豊葦原乃(トヨアシハラノ)。水穂之國乎(ミヅホノクニヲ)とは。大八洲神(オホヤシマノカミ)倭(ヤマト)の國を豊葦原と云ふなり。玉藻帰所(タマモヨスル)嶋ありて。大いなる樟(クスノキ)が太陽を蔽(サエギル)浦あり。南閻浮提(ナンエンブダイブ)八萬四千の神々が住まう國とも云ふなり。瑞穂の國とも云ふはその國肥饒豊富なるを以て云ふなり。
【原文】 安國止。平久。所知食止。事以志。奉技。如此寄志。奉志。
【訓戒】 日本國浦安乃國於謂布也。
【口傳】 安國止(ヤスクニト)。平久(タイラケク)。所知食止(シロシメセト)。事依志(コトヨザシ)。奉伎(マツリキ)。如此寄志(カクヨサシ)。奉志(マツリシ)とは、豊葦原は神國としての定まりたる天命有れば、波ひとつ立たざる穏やかな國であれと、浦安國とも云ひたる。安(ヤス)は危ふきの反、平らは仄の反なれば、萬世に君臣の道違わず、外國の浸擾を受ける事無く、飢饉の患ひ少なく、風水虫の災い無く、五穀豊かに實り、財物に過不足無き樣を云ふなり。事依奉伎(コトヨザシキ)は付託の義にて中國の教えなり。孟子が云ひたるに民は貴きものにて社稷(シャショク)は之に次ぎ、君子は輕きものとす。是の故に士民を得て天子と爲す。天子を得て諸侯と爲す。諸侯を得て大夫となす文あれば、此れによりて知るべし。神事の軽重を問わず、その上を承りて神威の嚴重なる式を此処で述べ玉ふなり。
第一段 神孫降臨祓の曰く
【原文】 國中爾。荒振神等乎波。
【訓戒】 素盞鳴尊之子孫。大己貴神乃其乃御子。事代主神。是禮等乃類乃神也。
【口傳】 國中爾(クヌチニ)。荒振神等乎波(アラブル カミドモヲバ)とは。素盞鳴尊(スサノヲノ ミコト)の子孫、大己貴神(オホアナ ムチノカミ)の子、事代主神(コトシロヌシノ カミ)。是れらの神々の類(タグ)い、或いは荒御玉等(アラフル ミタマタチ)をも云ふが、日本書紀第二神代下(カミシモノマキ)には多(サワニ)に螢火の光神(カガヤク カミ)、及び蝿声(サバヘナス)邪(ア)しき神有り。復(マタ)草木咸(コトゴトク)言語(モノイフコト)有り。さらに葦原中國の邪(ア)しき鬼(モノ)などを荒振神(アラフルカミ)と云ひしが、此処にては時には皇親神(スメラカムツノカミ)の命に服せぬ神々をも云ふなり。
【原文】 神問志爾。問志賜。神掃。
【訓戒】 香取明神經津主命。鹿島明神武甕槌命乃命於謂布也。
【口傳】 神問志爾(カムトハシニ)。問志賜(トハシタマヒ)。神掃(カムハラヒニ)とは。香取明神經津主命(フツノヌシノミコト)、鹿島明神武甕槌命(タケミカツチノミコト)に、荒振神々の平定を命ぜられ玉ふや、岐神(クナドノカミ)を以て郷導として神の命に従わぬ者は直ちに征伐し、時には其の場で斬殺するも、慌てて帰順する者にはその罪を許し、時には褒美を與えしと。此処に問ふとは言語にて問い糺すは勿論の事、一切の罪を封ずる事も云ふ。則ち高皇産靈尊(タカビムスビノ ミコト)矢を還(カエ)して天若日子(アメノワカヒコ)を誅し玉ふ例有り。
【原文】 掃賜比弖。語問志、盤根樹立、草之垣葉乎毛。語止弖。
【訓戒】 能久言語須波咸久皆波強暴也。先鹿島香取二神於遣志。爰於以天遂仁誅却須神。及草祖鹿屋野比賣神。木祖久久能智神於。草木石之類。皆已仁平治須也。
【口傳】 掃賜比弖(ハラヒタマヒテ)。語問志(コトトヒシ)。磐根樹立(イハネキタチ)、草之垣葉乎毛(クサノ カキハバヲモ)語止弖(コトヤメテ)とは。佛家に於いては天魔外道の類いを云ひ、人を惱乱し、君臣の道無く、正に修羅・餓鬼・畜生の所業を行うものを荒振神の類いとするが、此処に於いては諸尊賤民庶に至る心貧しき者も、威に従いて歸順するを云ひたり。されば國成りて長き年月經ねば、本より荒芒(アラビ)磐石(イハ)草木に至及(イタル)迄強暴(アシカルモノ)多く、螢火の光神(カガヤクカミ)、蝿声(サバへナ)の邪神(アシキカミ)多ければ、武甕槌命(タケミカツ チノミコト)、經津主命(フツノヌシノ ミコト)は速(スミ)やかに従わぬ鬼神(モノノケ)迄平定し、草は草祖(クサノオヤ)鹿屋野比賣神(カヤヌ ヒメノカミ)に、木は久々能智神(ククノチノカミ)に命じ、立ち騒ぐ草木石の類いを和順(マツロ)はせしむなり。
【原文】 天之磐座放。天之八重雲乎。伊豆乃・千別爾。千別弖。天降以志、奉伎。如此依左志。奉寸志。
【訓戒】 皇孫尊自天下利座須之間御饌供布。爾乃時仁盃中霧起。而天水國於闇久須。此如天自水相霧塞久。茲仁因天尊天下座須事於不得也。爾乃時天押雲命。中臣祓於以天依之奉利。之於解除清淨志天而。天之八重雲於出之。道別天天下座須事於得足留也。日向乃高千穂之峰仁天下蹟也。
【口傳】 天之磐座放(アメノイハクラハナシ)。天之八重雲乎(アメノヤヘグモヲ)。伊豆乃(イズノ)。千別爾(チワキニ)。千別弖(チワキテ)。天降依志(アマクダシヨサシ)奉伎(マツリキ)。如此依左志(カクノヨサシ)奉志(マツリシ)。邪神(アシキカミ)、邪鬼(アシキモノ)撥(ハラ)ひ、平らけくなせば、此の國を治めんと皇孫尊(スメミマノミコト)が、天下(アマクダリ)なさんと、神々に御饗(ミケ)を供へ玉ふ。其の時に盃の中より忽ち霧生じ邊りを闇(クラク)し玉ふ。乳白色の霧は悉く視界を遮り、明かりも定かならずば、尊一時は斷念す。其の時天押雲命(アメノオシクモノミコト)が、解除詞(ハラヘノコトハ)を奉(マツリ)て、解除(ハラヘ)清淨(キヨメ)玉へば、大虚空と大地輪に(天之磐座の意)、志那都比古神(シナツヒコノカミ)が、厚き霧を吹き祓へ玉へば(天の八重雲を押し放つ意)、忽ちにして空は晴れ渡り(伊豆の意)、天下り座(マ)す事を得たり。日向の高千穂(木患)觸之峰(クシフルノミネ)が、其の天下り座(マ)す御蹟なりと。
更にに日本書紀巻第二神代下(カミヨノシモノマキ)第九段に於いて、時に高皇産靈尊(タカヒノムスビノミコト)真床追衾(マトコオフフスマ)を以て、皇孫(スメミマ)天津彦々火瓊々杵尊(アマツヒコ ヒコホノニニギノミコト)に覆ひて、降(アマクダリ)まさしむ。皇孫(スメミツマゴ)、乃ち天磐座(アメノイハクラ)を押離(オシハナチ)と有り。之は高天原に於いて神事(カミツワザ)を行うに、司靈者は一段と高い岩の台上において行いしが、此の時の座を天磐座(アメノイハクラ)と云ふなり。高皇産靈尊は降臨にあたり、天磐座に於いて中津國へ赴く瓊々杵尊の爲に、神祇遷座の式を幾重にも雲海棚引く高天原に於いて(天之八重雲之意)、いとも厳かに(伊豆の意)執り行なわれた後に、下界に向かい八衢(ヤチマタ)を目指し涌き立つ雲海の道を掻き分け(千別の意)、掻き分け天降り玉ふなり。
第二段 天之御陰に曰く
【原文】 四方之國中止
【訓戒】 大日本州也。大日乃宮世界國土也。
【口傳】 四方之國中止(ヨモノクニナカト)は。神道に於いては大日本州、佛家にては南閻浮提(ナンエンプ)なる國が、世界國土の中にあり。
【原文】 大倭日高見國乎安國止
【訓戒】 大八州之中央仁廣大波地在也。日本波即知倭國之別名也。
【口傳】 大倭(オホヤマト)。日高見之国乎(ヒタミノクニヲ)。安國止(ヤスクニト)は。大八州(オホヤシマ)ありて中央(ナカツ クマハ)、地(ツチ)廣大にして開き、天照太神が治め玉ふ穏やかなる國にて、東方佛法發祥の地なり。倭國(ヤマトナルクニ)の別名あり。
【原文】 定奉弖。下津磐根爾。
【訓戒】 金剛寶座於謂布。
【口傳】 定奉弖(サダメマツリテ)。下津磐根爾(シタツイハネニ)とは。神々が鎮まり玉ふ金剛寶座を謂ふなり。
【原文】 宮柱太敷立
【訓戒】 皇孫天降玉比志時、皇租勅志天曰久。其乃宮造利之制者。柱即知高加禮。
板波
廣加禮厚加禮
【口傳】 宮柱太敷立(ミヤバシラフトシキタテ)とは。皇孫(スメミマゴ)が天下り玉ひし時、皇祖(スメミオヤ)勅して曰く。其の宮造りの始めに於いては、柱は則ち高(タカ)かれ太(フト)かれ。板は則ち広(ヒロ)かれ厚(アツ)かれと。
【原文】 高天原爾。千木高知弖。
【訓戒】 言久。其乃轉波風乃如久峻久峙久志天而。雲於穿知天仁靡久意也。
【口傳】 高天原爾(タカマガハラニ)。千木高知弖(チギタカシリテ)とは。更に重ねて言く。宮の広く雅やかにして、且つ大きく立派な様なれば群を抜いて高く聳へ、其の千木なるは雲を穿ち天に届かん程なり。
【原文】 皇御孫之命乃。美頭乃。御舎仕奉弖。
【訓戒】 美頭波富仁志天饒志岐之名也。古語也。凡日乃太神天石窟於開岐天。
天下利坐。端材於以太久瑞乃宮殿於始女天造建弖遷利坐也。宮止者使者眷属衆生於謂也。殿止波聲聞縁覺菩薩於謂也。鳥居止波寶蓮乃形奈留阿字門也。
【口傳】 皇御孫之命乃(スメミマノミコトノ)。美頭乃(ミヅノ)。御舎仕奉弖(ミアラカツカヘマツリテ)とは。古語(フルコト)に富(ユタカニシテ)饒(ユユシキ)を美頭(ミヅ)と云ひけり。神事(カミツワザ)に於いては、日の大御神は天の石窟(イハヤ)を開き玉ひ、仕える日靈女(ヒルメ)は端材を以て太く、始めは瑞宮殿(ミヅノミアラカ)を建てて、遷(ウツリタマフ)神々の座を設(シツラ)ふ。佛家の者曰く。宮(ミヤ)には神の使者眷等が住まう所にて、殿(イラカ)には声聞・縁覺・菩薩等が住まう所にて、鳥居(トリヰ)とは寶蓮の形にて阿字門を表すなり。
【原文】 天之御蔭。日之御蔭止。陰坐弖。安國止。平氣久。所知食武。
【訓戒】 謂留天乃御蔭。日乃御蔭造利仕邊奉留。已上大殿祭也。始帝天種子命乃解除於造利賜也云云。祓乃表白是禮謂留一日千人死羅波。一日仁一千五百人生。是伊弉那諾尊與爾。
【口傳】 天之御蔭(アメノヒカゲ)。日之御蔭止(ヒノミカゲト)。陰坐弖(カクリマシテ)。安国止(ヤスクニト)。平氣久(タヒラケク)。所知食武(シロシメサム)。天の御蔭、日之御蔭とは日月に感謝し、大嘗祭の後に大殿祭(オホトノホガヒ)として神事(カミツワザ)を行う始まりを云ひ、天種子命(アメノタネノミコト)の解除詞(ハラヘノコトハ)なり。神事(カミツワザ)に於いては祓詞(ハラヘコトハ)、佛家にては表白(ヒョウハク)と云ひ、祓詞(ハラヘ)の最初は伊弉諾尊の事戸(コトド)なりと。謂く我が國の人草一日(ヒトヒ)に千人(チカウ)ヘ死(マカラ)はんなれば、一日(ヒトヒ)に一千五百人(チイホカウベ)生(イケ)らん事なり。
されど此処で云う天之御陰とは天命を云ふなり。凡そ人の過ちは自らの賢(サカシヒ)小智より起きると云ふ。天命に順じ自然に任ずればその過(アヤマチ)無きと云ふ。然るに人は善行を積む事無く、悪業を積み重ねるによりて其の身を危ふくするなれば、善行を積み重ね善き天命を頼み参らせる事肝要なり。日の御蔭も同じ意にて天照太神の道明かなる理りを云ひたれば、人の災は全て其の心より起こるという事なり。されば天より與へられし御恵みを慎み、天照太神の照らし玉ふ道を恐れ敬うを云ふなり。
第三段 群生犯罪祓に曰く
【原文】 國乃中爾。成出武。天之益人等我。
【訓戒】 伊弉那美尊之請願也。故仁天益人止名付久也。天止號者。大日宮世界國土一切我等衆生於作利玉布加故也。皆是中津國土。日玉。月玉之中に住留者也。故仁天益人止曰布也。其事理於辨邊天其之本源於明加仁施令也。一切衆生入胎之始先虚空仁住須。其之後漸久形於轉志天。五輪之體止成利。變志天人躰尊形止成留。而常住不変也。
凡天世界波本自利本覺也。法自利无明也。法波亦法界也。本波是衆生也。本波佛也。本也神也。
【口傳】 國乃中爾(クヌチニ)。成出武(ナリイデム)。天之益人等我(アメノマスヒトラガ)の。天(アメ)とは大日宮の世界を云ひ、一切の國土に於ける物、我等一切衆生を作り玉うが故なれば、神の子が住める中津國に於ひてはは日(テルミタマ)月(ミカクタマ)の益(ミメグミ)に生かされている故に天益人と云ふ。其の事理を明らかにし、其の本源を明からさまにすれば、一切衆生は生を受け入胎の始めに當たり、先ず虚空に住し、其の後漸く形を轉じて五輪の體と成り、生じて人体尊形と成れり。而して常住不變となるなれば、佛家に於いては、凡て世界は本より本覺なり。本より無明なり。故に本は法界なり。本は是れ衆生なり。本は佛なり。本は神なりと。
【原文】 過犯云牟。雑々罪事波。
【訓戒】 中臣祓於以天。諸罪於解除比賜。然波是眞正奈留淨戒波羅蜜多於宣説須留仁。
此淨戒波羅蜜多於天、意界不可得也。
【口傳】 過犯家牟(アヤマチオカシケム)。雑々罪事波(クサグサノツミゴトハ)。己が心に知りしまま犯しけむ雑々(クサグサ)の罪、己が心に知らずして犯しけむ雑々(クサグサ)の罪をば、解除詞(ハラヘノコトバ)を以て、諸(モロモロ)の罪を解除(ハラヘ)玉ふなれば、此処に云う雑々(クサグサ)の罪とは天津罪、國津罪の全てを云ふなり。
第四段 天上所犯罪祓と曰く
【原文】 天津罪止。
【訓戒】 素盞鳴尊於謂布。天上所犯之罪止為須也。本記仁載天具佐也。
【口傳】 天津罪止(アマツツミト)は。素盞鳴尊が天上界は大嘗祭殿に於いて行いし悪しき全ての罪を謂ふ也。以下日本書紀神代上(カミヨノマキ)第七段に素盞鳴尊の為行(シワザ)。甚だ無状(アヅキナキ)。何(イカニ)とすれば、天照太神天狹田(アマノサダナ)長田(オサダ)を以て御田(オンタ)とし玉ふ。時に素盞鳴尊、春は重播種子(シキマシナシ)、且(マタ)畔毀(アハナチ)す。秋は天斑駒(アマノブチコマ)を放ちて田の中に伏す。復(マタ)天照太神の新嘗(ニヒナヘ)聞こしめす時を見て、則ち陰(ヒソカニ)新宮(ニヒナヘノミヤ)に放尿(クソマル)。亦天照太神の方(ミザカリ)に神衣(カミソ)を織りつつ、斎服殿(イミハタドノ)に居ましすを見て、則ち天斑駒(アマノブチ コマ)を剥(サカハギニ ハギ)、殿(トノヰ)の甍(イラカ)を穿(ウガチ)て投げ納(イル)と有り。
【原文】 畦放。溝埋。樋放。
【訓戒】 畦於破壊志。溝於埋没志。樋於破壊志。農耕於妨具也。
【口傳】 畔放(アハナチ)。溝埋(ミゾウメ)。樋放(ヒハナチ)とは、或る一書に天照太神の所有田(モチタマヘルタノウチ)天安田(アマノヤスダ)、天平田(アマノヒラタ)、天邑并田(アマノムラアハセダ)は良き田なれば、霖旱(ナガメヒデリ)に經(フト)雖も、損傷(ソコナワレル)事無けれども、素盞鳴尊の所有田(モチタマヘルタノウチ)天杙田(アマノクヒダ)、天川依田(アマノヨリダ)、天口鋭田(アマノクチトダ)は、皆な磽地(ヤセチトコロ)なり。雨降れば流れぬ。旱(ヒデレ)ば焦(ヤケヌ)。故(カレ)素盞鳴尊妬(ネタミ)て、姉(アネノミコト)の田(ミタ)を害すると有り。
畔とは田の境界ともなるものなれば、其の畔を破壊するは他人の田を犯す重き罪となり、溝は悪しき水有れば流し出し、善き水を引きて良き苗を養う爲に地面を掘り用水路としたるものを、水を流し出して灌漑用の溝を埋め田の水を入らぬようにするは重き罪となり、灌漑の爲の木製の水門、樋などを壊すのも他人の農耕の大いなる妨害(サマタゲ)となり、其の罪は甚だ重きものなり。
【原文】 頻蒔。串刺。生剥。逆剥。屎戸。許許太久之。罪乎。
【訓戒】 言久。數多之謂布也。俗人曰。己己波久是之説也。梵語也。
【口傳】 頻蒔(シキマキ)。串刺(クシサシ)。生剥(イケハギ)。逆剥(サカハギ)。屎戸(クソヘ)。許々太久乃(ココダクノ)罪乎(ツミヲ)とは。一度蒔きし籾種の田に、別人が故意に播種する事によって、先に蒔きし種も後から蒔きし種も、共に成長する事なければ其の罪重きものとなり、更に自分の所領地の印である境の串を引き抜いて、他人の田に突き刺して横領する等、農耕生産を著しく妨害する重き罪だけでなく、天の斑馬の皮を生きたまま普通に剥ぐ事無く、尾の方から剥ぐという、人の道に外れた外道の行いも又重き罪なり。更に神聖な大嘗殿に於いては、それでなくとも塵一つ無きよう、常に清淨に心掛けたる場所なるに、事もあろうに大小便を撒き散らす等とは、正気の者のなす所業ではなければ、其の罪最も重きものとされています。特に屎戸(クスド)と詠みたる時は住まう家あれば、必ず屋敷の四隅に四神あるように、四隅には門戸にあたる位(クライ)有るなり。則ち天門、福徳門、人門、鬼門なれば、此の方位には厠屋を設ける事無く、清淨にせねば重き神明の咎あるなれば、わが家の門戸を汚す事、則ち汚き屎にまみれしと同じなりとの意で、屎戸なる言葉生じたると傳有り。
以上八つの天津罪の大罪の全てを許許太久(ココダク)の罪と云ふなり。
【原文】 天津罪止。法別氣弖。
【訓戒】 罪障懺悔之文也。無明清淨之法益也。辞辞也。
【口傳】 天津罪止(アマツツミト)。法別氣弖(ノリワケテ)とは。更に天津罪の罪を天の裁きに従ひて考えるに、天の大罪の第一は田畑に於ける農耕妨害の罪、第二には家畜を殺し神衣(カミソ)を織る忌機殿(イ ムハタドノ)に於ける大嘗祭支度妨害の罪、第三には神聖で無ければならぬ大嘗殿に於いて大小便を撒き散らし神事を妨害し農耕神を冒[涜]したる罪の三つの罪なりと説き玉ふ。
第五段 國土罪祓と曰く
【原文】 國津罪止八。
【訓戒】 君臣上下現在所犯之罪也。
【口傳】 國津罪登八(クニツツミトハ)。君臣上下関係なく、現在犯せる所の人の人たる道を外し、近親 相姦、獣姦、その他咒物(マジモノ)等と、天變地變による不祥な兆し等も含めて云ふなり。
【原文】 生膚斷。死膚斷。
【訓戒】 生膚斷波人於傷付也。灸治也。故仁穢氣有留也。又死之膚斷波殺人也。死燒之名也。穢於爲也。
【口傳】 生膚断(イキハダタチ)。死膚断(シニハダタチ)とは。神の子が徒に我が身を傷つけたり、傷ましめる罪だけでなく、故意に人を傷つけ人の命を脅かしだけでなく、遺体を傷つける等は罪に値するなり。
伊勢古流に於いての神事に携わる者は、無暗(ムヤミ)に禽獣魚鳥の命を斷つ事無く、常に身を慎むべしとあるなり。
【原文】 白人。
【訓戒】 白癩。又赤癩。
【口傳】 白人(シラヒト)とは。徒に身体に墨を入れ、けばけばしき化粧(ヨソオヒ)をするも、又身を不潔にし異臭を放つも、神、人共に不快感を與えるにより罪に値するなり。
【原文】 胡久美。
【訓戒】 [病息]肉也。又云久。[病嬰][病重]之類也。又云久。黒癩也。
【口傳】 胡久美(コクミ)とは。不攝生により贅肉多く付きたるも、身体を不潔にし腫物、出来物などを作りしも、さらには口臭・腋臭(ワキガ)等も、神、人共に不快感を與えるにより、罪に値するなり。
【原文】 己母犯罪。
【訓戒】 婚合之罪也。一仁云久、不幸之罪也。惣天父母之父母止波。伯叔父姑兄姉外祖父母妻子等。三密萬徳之阿字同體遍照五輪也。
【口傳】 己母犯罪(オノガハハオカセルツミ)とは。近親相姦による婚合(マグワヒ)の罪、若しくは不孝の罪を云ふなれど、此処にては女人の親、則ち母が常に人の道を教導し、若し過ちあれば之を戒むとあるに、我が子に對して盲目の愛をなすも、子を犯す事も、悋気、嫉妬、不倫する事も、共に大罪なれば、神明憎悪あらん事を恐れるべし。
【原文】 己子犯罪。
【訓戒】 婚合之罪也。一仁云久。母躰内仁宿禮留其時也。謂久。陰陽遍満之體乾坤仁顯波留。皆是禮无始无終一念无明貪欲懺悔而。即佛智仁向哉。
【口傳】 己子犯罪(オノガコヲオカセルツミ)とは。近親相姦による婚合(マグワヒ)の罪、若しくは堕胎の罪を云ふなれど、此処に於いては子と云へど、女子のみに非ずして、男子も含めて云ふなり。子は甘えの心何時迄も有りて、母一人のみでは手を燒く事屡(シバシバ)有りしと。父は黙って子を嗜め自立の道を歩ます務め有るに、母以外の女或いは、其の女の娘と交わる罪、家を顧みずして外に徘徊するもの、酒色、賭事、浮氣する事も共に大罪なれば、神明憎悪あらん事を恐れるべし。
【原文】 母子犯罪。子母犯罪。
【訓戒】 過去之父母波即現在乃夫妻也。現在乃妻子波即過去乃父母なり。
已上贖須所乃罪波。謂久煩惱仁依天受易久生死乃因縁也。或波兄弟姉妹止為。若波天魔外道止為。若餓鬼禽獣止為。始自今仁至迄更更生禮代代死志天。煩惱塵勞之門於排志。六道四生之囹仁宿利。轉變定利無志。善行於円満志。四恩於拔濟志懺悔乃法於修志。一心乃理仁歸禮波。神與佛波異留事無。即我心止衆生乃心止佛心止倶仁差別無。我意即清浄也。我心即寶乗也。
【口傳】 母子(ハハト)犯罪(コトオカセルツミ)。子(コト)母犯罪(ハハトオカセルツミ)とは。母たる身を忘れ、人の人たる道を踏み外し、我が腹痛めし子と交わるだけでなく、夫と交わりながらも、若き男と交わる不貞は共に大罪なれど、父も又己が所業恥じる事なく、一人の女性と交わりながら、其の母、若しくは他の娘と交わる罪、煩惱の赴くままに妻子ありながら、他の女と交わる罪、若しくは餓鬼禽獣と化して、實の姉妹とも交わるは天魔外道のなせる業にて、天地ともに許されるべきものでなければ、神明ことに憎悪強からん事を恐るべし。
佛家に説いて曰く。過去の父母は現在の夫妻なり。現在の妻子は即ち過去の父母なれば、近親相姦による贖罪は全て己が煩惱のなせるものにて生死の因縁となり、始めより今に至るまで生き生き生きて生きる事に暗く、死に死に死にて死ぬる事に暗ければ、煩惱塵労之門を排す事無く、六道四生之絆を斷つ事無く、有爲転変として定る事無し。然れば善行を圓満し、四恩を抜濟し、懴悔法を修して一心の理りに歸すれば、神と佛とは異なる事無く加護を玉わるべし。故に我が心と衆生の心と仏心の三つの心は共に差別する事無ければ。我が意は即ち清淨となり。我が心は即ち寶乗となるなり。
【原文】 畜犯罪。
【訓戒】 畜犯罪(ケモノオカセルツミ)とは。更に人の所業で有らざる行爲は母なれど女の性悲しく、夫に對しての不満、欲望の充たされぬ反動にて、悪鬼畜生と化して牛馬鶏犬猫等と交わる罪も重ければ、多情な男は妻若しくは思う人ありながら、山猿、大蛇、野狐等と交わりしも其の罪重けれど、それ以上に重き罪は喪服を來る人妻と、其の娘、神主、僧侶の人妻と其の娘、神に使える大物忌、巫女等(ミコタチ)、更には神佛、若しくは加持祈祷・蟲物(マジナヒ)にかこつけ人妻、又は其の娘を犯すは天地共に許されるべき所業にて、犬畜生にも劣るものとして其の身は神佛の加護無く、生きながらに嚴しき天の裁きを受くる物と心得るべし。
【原文】 昆虫乃災。
【訓戒】 虫怪波即知大已貴神禁厭之法於定牟留也。
【口傳】 昆虫乃災(ハフムシノワザワヒ)とは。斯くの如く我が身を傷ましむ行為、様々な恥じべき行爲、犬畜生に劣る行爲等を繰り返し行えば、邪神(アシキカミ)は忽ちにその人に取り付き、其の災いたるや争論、疾病、怪我、家庭の崩壊、人格の喪失等様々ありて、俗に云ふ畳の上で死ぬる事叶わず、甚だしきは誰からも看取られず狂乱の内に落命するなりと。其の災の一つに蝮蛇(クチナワ)や、百足(ムカデ)、毒蜂や、蝗等の災等様々なれば、前非を悔いて神祀りを行い大己貴神(オホアナムチノカミ)が定め玉ふ禁厭之法(マジナヒノホウ)を神主より受くべし。
【原文】 高津神乃災
【訓戒】 霹靂神乃祟也。即知雷電乃神乃災也。
【口傳】 高津神乃災(タカツカミノワザワヒ)とは。霹靂神(ヘキレキノカミ)の祟り。雷電神(ライデンノカミ)の災ひなり。
【原文】 高津鳥乃災。
【訓戒】 鳥類乃災也。私仁注志天曰。鶏時於異奈利鳴時。鳥[口高][口高]是也。
【口傳】 高津鳥乃災(タカツトリノワザワヒ)とは。鳥類のすべての災ひを云ふ。
【原文】 畜仆志。
【訓戒】 牛馬等乃類也。牛馬鶏犬猪羊等乃蟲物。厭魅。咒詛乃類也。
【口傳】 畜仆志(ケモノタフシ)とは。生き物を無闇に殺す罪を云ふなり。蟲物(マジモノ)為罪(セルツミ)。更に蟲物(マジモノ)に犬・猫、管狐等(クダキツネタチ)小動物を虐待、餓死させ、首を埋めたり、竹筒に封じ込め、厭魅(マジナヒ)呪詛(ジュソ)等に用いるを云ふ。
【原文】 許許太久乃。罪出武。如此出波。
【訓戒】 様々奈留罪科於云布奈利。
【口傳】 許々太久乃(ココダクノ)罪出武(ツミイデム)。如此出波(カクイデバ)。即ち天津罪、國津罪に書かれている農耕妨害、不倫姦淫、傷害殺人、天変地變による様々な災禍の全てをひ、是らの罪は免れえぬ大罪なれば、若し過ちて犯せば速やかに神の前にて申し述べる事肝要なり。
第六段 祓 具
【原文】 天津宮事。以弖。
【訓戒】 諸法波影像乃如志。清淨仁志弖瑕穢無志。取得於得不可須。皆花咲岐弖散利。是乃實止奈留奈理。神乃宮乃命也。祝詞仁。[口奄。口毘。倶。哩。口毘。倶。禮。娑。口縛。賀。]
謂久。是於宣波。即一心清淨仁志弖。常住圓明乃義益也。是淨戒波羅多修須留波利。是於觀須禮波不可得乃妙理也。
【口傳】 天津宮事(アマツミヤゴトヲ)以弖(モチテ)とは。大日霊神(オホヒルメノカミ)の中臣祓(ナカツハラヒ)の、天津宮事(アマツミヤゴト)に、
白衆等(アキラケキヒトタチ)各念(オノオノオモヒタマヘ)。此時(コノトキ)清浄偈(キヨクイサキヨキノリヲナス)。
諸法は(モロモロノノリコトハ)如影像(カゲトカタチノゴトシ)清浄(キヨクイ サキヨキモノハ)無瑕穢(カリソメニモケガルルコトナシ)取説(ヒトノコトハヲトリテ)不可得(ウヘキコトナシ)皆従(ミナタネヨリナル)因業生(コノミトノタマハセリ)神宮命(カミノミヤナルミコト)の祝詞(ノト)の後に四句偈を説き玉ふ。
[口奄。口毘。倶。哩。口毘。倶。禮。娑。口縛。賀。]是の誦は大日如來金言なり。吾れ日輪三昧に入りて尊と無二にして、伊勢高天原之殿に有るべし。汝常に來りて吾が恩を報ずべし。
【原文】 大中臣。天津金木乎。
【訓戒】 現在仁有志人乃犯施留科於祓於云奈利。楡乃[木若]二枝。是乃一乃名於白枝止號須也。是即如來大智之寶威。悪魔降伏之金輪也。
【口傳】 大中臣(オホナカトミ)。天津金木乎(アマツカナギヲ)とは。大中臣(オホナカトミ)神の命により諸々の罪咎を祓い清める具である、天津金木(アマツカナキ)を整えんとす。金木は楡(ニレ)、榴(ザクロ)の枝の太った若い白木、若しくは榊の直ぐなる小木の枝と、鈴竹を用いしなり。佛家にては梅のずばえと、鈴竹とを合わせ用い、如來大智之宝威を示し、悪魔降伏の獨鈷杵を表すなりと。
【原文】 本打切。末打斷弖。
【訓戒】 本於以弖是於奈須。長者二尺四寸。八枝於以弖一束止奈須。八座仁八束於置久。短者長一尺二寸也。四枝於以弖一束止奈須。
【口傳】 本打切(モトウチキリ)。末打斷弖(スエウチタチテ)とは。祓串の長さは二尺四寸の八支は神座となす爲、最初に本を打ち太さが目立たぬ善き所を選び末を切り、八支を八座と見立て一束にし、さらに八束となし六十四座を設けるなり。最小は一尺二寸四支一束とす。
【原文】 千座置座爾。置足波志弖。
【訓戒】 四座置久波八萬四千諸膳供也。八葉千葉華臺三世諸佛乃寶座也。天神地祇乃寶器仁弖。天下泰平之吉瑞也。
【口傳】 千座置座爾(チクラノオキクラニ)。置足波志弖(オキタラハシテ)とは。六十四座で以て八萬四千の天神、地神全ての神座と爲す。佛家曰く。六十四座は八葉千葉の尊き三世諸佛の宝座に匹敵し、天神地神の寶座となるなれば、天下泰平之吉瑞を示すなり。
【原文】 天津菅麻乎。
【訓戒】 遍照牟尼之一字金輪之表徳也。催魔怨敵之三摩耶形之體相也。神代乃昔陰神乃子素盞鳴尊。天上仁弖而犯施志過之罪有利志。時仁群神是於科須。
【口傳】 天津菅麻乎(アマツスガソヲ)とは。古来身滌(ミソギ)祓の執物(トリモノ)として、菅草、麻葉、茅草(チグサ)、夏草などあり。菅麻(スガソ)には女麻(メマ)とも云ひ、清き麻を意味するとして、神事に多く用いたり。手置帆負神(タオキホオヒノカミ)は、神事(カミツワザ)に菅笠(スゲガサ)を用いたる故を以て、作笠者(カサヌイ)と呼ばれたり。
【原文】 本苅斷。末苅切弖。
【訓戒】 千座置戸之解除於以弖。天児屋根命於。河内國平岡本地地蔵菩薩於
以其解除之太諄辭於掌留也。東天下於以弖四國乃中仁敬祭崇女留也。
【口傳】 本苅斷(モトカリタチ)。末苅切弖(スエカリキリテ)とは。古歌に曰く。
おもふこと みなつきねとて あさのはを
きりにきりても はらへつるかな

菅麻に諸々の罪、咎、穢、邪霊(アシキモノノケ)に、執り付けさせる執り物として用いる爲に作法通りに切るなり。佛家に於いては遍照牟尼之一字金輪之徳を表し、摧魔怨敵之三昧耶形之體相となる。素盞鳴尊の天上に於いて犯せし罪を、神々が之を咎めるを始まりとす。
【原文】 八針爾。取辟弖。
【訓戒】 重門悪鬼、更仁不向仁志弖誠於保津在舎者波。物怪有仁不及。須久懺者乃身體仁者時魔不害須。是於聞弖天神愚身於哀愍守護須。
【口傳】 八針爾(ヤツハリニ)。取辟弖(トリサキテ)とは。解除(ハラヘ)の作法により、まず二筋に裂き、次に二筋宛て四筋とし、更に二筋に裂きて八筋としてより、是れを以て総身を打ち祓ひ、其の後川へ流すなり。
第七段 太諄辞祓
【原文】 天津祝詞乃。太祝詞事乎。宣禮。如此宣羅波。
【訓戒】 天児屋根尊。天岩戸乃前仁志弖。祓玉布此乃祓也。神的微妙之秘傳茲仁有利。別義口授唯一相承之奥歌也。宣者天神地祇乃神託也。神乃知吾仁代利天。此乃神咒於唱邊災於攘比福於招比也。一念未生乃處。即天津祝詞太祝詞也。我賀一心即天地止觀須可。神我賀心仁入利。我亦神乃御内證仁入留事明鏡乃如志。无心无念乃祓也。此乃如久无想无念仁。神爾向邊波。則知吾止神明與波等支久志弖。一切乃所願成就須留事圓加奈利。即知實智自身乃神道乃如志。入我我入之觀也。无心之國津神臺仁无想之天津神仁於天波。雨露之慈愛於施須。其之地仁生禮留。萬物君主天子萬歳臺齢。千秋之祈都祓奈利。是禮又神前仁向比弖。其乃心仁波妄念起禮波。即知天下仁兵亂乃災比來留成留哉。
【口傳】 天津祝詞乃(アマツノリトノ)。太祝詞事乎(フトノリトゴトヲ)。宣禮(ノレ)。如此宣羅波(カクノラバ)とは。大嘗殿を汚せし罪で數多くの贖物である千座置座(センザオキクラ)を用意させ、解除(ハラヘ)を天児屋根命(アマノコヤネ)に命じ、四方國(ヨモツクニ)の神々を祀り、解除(ハラヘ)の太諄辞(フトノリト)を奏上させ玉へば、重門(モノカゲニヒソミシ)悪鬼(アシキ ココロネ」の輩(ヤカラ)は、誠の道を保ち、殿舎(ミアラ)に住まいたる悪しき物の怪、及び此の身に心つかぬ間に執り着きし魔性とて害をなさず、天神此の身を守護し玉ふ。

別義伊勢神事秘祓
門外不出口授。唯一相承の七種之祓なる神事。微妙之秘傳有り。其の内 に天児屋根命、天の磐戸の前に祓ひ玉ふものあり。是れが此の祓へなり。
天津祝詞。太祝詞は先ず己が一心の内に天地を觀ずべし。我が心に入れ亦神の御内証に入る事を得、明鏡の如きなれば、無心無念の祓いというなり。此の如く夢想無念にて神に向かえば、則ち吾と神明とは同一(ヒトシクシテ)、一切の所願成就する事圓(マドカ)なり。
佛家に曰く。如實自身の神道とは、眞言密教に説く入我我入之觀念と同じなり。無心の心は地祇(クニツカミ)臺(ウテナ)に上り、夢想の心は天神(アマツカミ)の雨露之慈愛を受くるとあるなり。
第八段 天地感応祓
【原文】 天津神波。天磐門乎。押披弖。天八重雲乎。伊豆乃。千別爾。千別弖。所聞食武。
【訓戒】 押志開岐玉布天津神者。天照太神。高皇産靈神。高貴乃尊奈利。天八重雲千別岐天。聞食施志所者。御氣津神於。豊受太神都號久留波是禮也。
亦波天御中主神都。天照須皇牟津御子都云布奈利。
【口傳】 天津神波(アマツカミハ)。天磐門乎(アマノイハトヲ)。押披弖(オシヒラキテ)。天八重雲乎(アメノヤヘグモヲ)。伊豆乃(イヅノ)。千別爾(チワキニ)。千別弖(チワキテ)。所聞食武(キコシメサム)とは。天照太御神は大嘗祭を執行(トリオコナフ)に、素盞鳴尊の亂行による農耕神に對しての非禮を謝する爲に、天磐戸に忌籠(イミゴモリ)し玉えば、全ての神事が滞り邪神等(アシキカミタチ)騒ぎ立て、様々な妖(アヤカシ)が起こり、天津神々の憂い日に増して嵐の黒雲の如く低く垂れ込め、日を遮り玉ふ事幾日にも及べば、伊勢。山城鴨。住吉。出雲國造齋神等(イツキノカミタチ)、主なる天津神々が相ひ圖り、天の磐戸神事を行い玉ふなり。
【原文】 國津神波。高山末。
【訓戒】 須彌山奈利。
【口傳】 国津神波(クニツカミハ)。高山末(タカヤマノスエ)とは。此の國土(クニ)生座(ナリマ)せる大倭葛木(オホヤマトカツラキ)。葛木賀茂(カツラキカモ)。大神(オホミワ)。朝熊(アサマ)。出雲大汝神(イズモオオナムチノカミ)。大嶺(オホミネ)。熊野(クマクマシキトコロ)に住み玉ふ神々は、高き御山連なり雲海の彼方に入り玉ふ。
【原文】 短山之末爾。登坐弖。
【訓戒】 短山止波七金山奈利。須彌山。七金山。高山。短山仁登利坐手都波。一切衆生於哀愍志感應支弖。上下相比合邊留哉。
【口傳】 短山之末爾(ヒキヤマノスエニ)。登坐弖(ノボリマシテ)とは。産土神等(ウブスナノカミタチ)は高山の裾、低き山の霧立ち込める淨らかなる杜(モリ)に入り玉ふなり。
【原文】 高山伊惠理。短山伊惠理乎。掻別弖。所聞食武。
【訓戒】 宮殿止波。國津神。太志岐神。大倭葛木。葛木賀茂。出雲大已貴。事代主神乃類於謂也。伊惠理者謂久蘆戸宮也。所聞食牟波。請志有禮波必須到利。祈有禮波必須應有理。故仁大日四種法心諸尊光明心殿於押志開幾。妙觀察智之月。内外十方之性頂於照支玉布。佛神乃命助志靈鬼加護於蒙理。一如實相於明羅加爾志天。常住圓加仁照須也。然禮波則知天照太神都者大日遍照尊奈理。諸神乃最貴足留者也。諸乃尊无二仁志天皆眷属者仕留也。直仁天津神波四州於廻利弖、而下界於照志。國津神波八州仁住志天。而國土於守留奈利。此禮大慈大悲之誓願也。皆衆生利益之方便也。伊勢太神天平年中乃託宣仁曰久。實相眞如之月輪波生死長夜之闇於照志。本有常住之日輪波。无明煩惱之雲於掃布。日輪波即知天照太神也。月輪波即知豊受皇太神也。兩部不二仁支弖差別无岐哉。胎蔵界大日之教令身波不動明王奈理。金剛界大日之教令身波降三世夜叉明王奈留哉。
【口傳】 高山伊恵理(タカヤマノイエリ)。短山伊恵理乎(ヒキヤマノイエリヲ)。掻別弖(カキワケテ)。所聞食武(キコシメサム)とは。多くの神々は、高山の厚き雲海の中にある神事(カミツワザ)を行う齋庭(ユニハ)に、或いは高山の裾、低き山の霧立ち込める彼方にある神事(カミツワザ)を行う斎庭(ユニハ)に於いて祭祀を行ひたるなり。佛家に曰く。天津神。國津神共に神事を行うとは、一切衆生を哀愍し感應して上下相ひ合へりを云ひ、請あれば必ず到り、祈り有れば必ず應あり。故に大日如來は四種の法身、諸尊光明心殿を押し開き、妙観察智之月内外十方之性頂を照らし玉ふ。佛神は命助し、靈鬼は加護を蒙り、一如實相を明らかにして常住圓かに照らし玉ふなり。然れば則ち天照太神とは大日遍照尊なり。諸神の最高たる者なり。諸尊無二皆仕え奉る眷属なり。直ぐに天津神は四州を廻りて、而も下界を照らし、國津神は八州に住し國土を守る。此れ大慈大悲之誓願なり。皆な衆生の利益之方便なり。伊勢大御神之託宣に曰く。實相眞如之月輪は生死長夜之闇を照らし、本有常住之日輪は無明煩惱之雲を掃(ハラフ)。日輪は即ち天照皇太神なり。月輪は豊受皇太神なり。兩部不二にして差別無し。胎蔵界大日之教令輪身は不動明王なり。金剛界大日之教令輪身は降三世夜叉明王なりと。
第九段 譬喩祓
【原文】 如此所聞食弖波。皇御孫之命乃。朝廷乎始弖。天下四方國爾波。罪止。云罪波。不在止。科戸之風乃。天八重雲乎。吹掃事之。如久。朝之御霧。夕之御霧乎。朝風夕風乃。吹掃事。如久。
【訓戒】 謂久。八風神於驚加志弖。无明乃雲奈留煩惱乃闇夜於掃比。常住乃月明加奈留故仁。三明七覺乃悟於開岐弖。將爾二世之素懐於遂倶。即知諸佛乃方便。皆神明之徳於具邊足留也。
【口傳】 如此所聞食弖波(カクキコシメシテハ)。皇御孫之命乃(スメミマノミコトノ)。朝廷乎始弖(ミカドヲハジメテ)。天下四方乃國爾波(アメノシタヨモノクニニハ)。罪止(ツミトイフ)云罪波(ツミハ)不在止(アラジト)。科戸之風乃(シナトノカゼノ)。天八重雲乎(アメノヤヘグモヲ)吹掃事之(フキハナツ)如久(ゴトク)。朝之御霧(アシタノミギリ)。夕之御霧乎(ユウベノミギリヲ)。朝風夕風乃(アセカゼユウカゼノ)吹掃事(フキハラフコトノ)如久(ゴトク)とは。伊弉諾(イザナギ)。伊弉冉(イザナミ)の二柱の神が國産みのおり、餘りにも朝霧が深く神事(カミツワザ)の妨げとなりたるにより、伊弉諾神が大きく息を吸い息を長く保ち、朝霧を悉く吹き払いしおり、其の息より生まれし子を級長戸邊神(シナトベノカミ)と名づけ玉う故事を、科戸之風(シントノガ)と云ひたり。佛家に曰く。八風(ヤツノカゼ)神を驚かして無明長夜の雲、煩惱の闇暗(トコヤミ)を吹き拂へば、常住の月明らかとなり。三明七覚の悟りを開きて将(マサ)に二世之素懷(ソカイ)を遂く。則ち諸佛の方便(ハカリコト)は皆な神明之徳を具へたり。
【原文】 大津邊爾。居留大船乎。舳綱。解放。艫綱。解放弖。大海原爾。押放事。如久。
【訓戒】 生死乃大海也。大乗懺悔乃船也。諸乃纜於[涜]河乃東仁解岐放知。精進之幢於樹弖。静慮之[馬風]於擧禮波。須臾仁志弖。三祇於經弖。菩提乃岸仁到理登留奈留哉。
【口傳】 大津邊爾(オホツベニ)、居留大船乎(ヲルオホブネヲ)。舳綱(トモツナヲ)解放(トキハナチ)。艫綱(ヘツナヲ)。解放弖(トキハナチテ)。大海原爾(オホミノハラニ)。押放事(オシハナツコトノ)。如久(ゴトク)とは。大いなる海邊に於いて船出をせんとする巨大なる船に於いては、船の先端、 船の後部に於いて船を繋ぎ止めし綱を解き放し、まさに大海原に乗り出さんとする勇ましき樣を云ふなり。
佛家に於いては、生死の大海には常に憂き事多く、湧き起こる煩惱の黒雲より身を苛いなます風多ければ、今まさに心より懴悔し、越し方の過ちを改め、大乗の懴悔の船に乗りて、[涜]河(トクカハ)の東に艫綱を解き放ち、精進の幢を樹て静慮の風を招けば、須臾にして三祇を經て菩提の岸に至るなり。
【原文】 彼方之繁木本乎。燒鎌乃。敏鎌以弖。打掃事。如久。
【訓戒】 謂久、智慧之刀於磑伊弖。百八煩惱乃籔荊於剪掃布也。
【口傳】 彼方之繁木本乎(オチカタノシゲキガモトヲ)。燒鎌乃(ヤキカマノ)。敏鎌以弖(トガマヲモチテ)。打掃事(ウチハラウコトノ)。如久(ゴトク)とは。拂えども拂えども、拂い盡くし難き諸々の罪は、恰も彼方に見みゆる欝蒼と繁れる木の下の雑草の如きなれば、特に念入りに燒きを入れた鋭利な鎌で以て刈りたてるを斯く云ひしなり。佛家に於いても人の心の中には百八煩惱よりも、多くの佛果を妨げる煩惱あれば、常に佛の御名を稱え、懴悔の心を抱くと共に智惠之刀を磨き、禍根となる一切の煩惱の根源を切り拂うなり。
第十段 徳化利生祓に曰く
【原文】 遺禮罪波。不在止。祓給比。清給事乎。高山乃末。短山末與利。佐久那谷爾。落多支都。
【訓戒】 右所謂都天四重五逆之業塵。八風仁吹岐掃禮弖。而残留事無久。三業六情之罪垢。海水仁洗波禮弖。而留摩羅須。八百鬼類等乃怖畏障碍之難無久。十魔四魔乃大軍速仁萬病乃氣於摧久也。宣奈留哉。无上乃妙理於傳弖。一切種智於得弖。内外乃障難於除岐弖。二世乃悉地於成須留事哉。
【口傳】 遺禮罪波(ノコルツミハ)。不在止(アラジト)。祓給比(ハラヒタマヒ)。清給事乎(キヨメタマフコトヲ)。高山乃末(タカヤマノスエ)。短山末與利(ヒキヤマノスエヨリ)。佐久那谷爾(サクナダニニ)。落多支都(オチタギツ)とは。此のように身を謹み、罪の全てを神の御前に申し述べ、全ての罪咎、穢の全てを集めに集めし様は、恰も深山御山の其の奥の滴る水が集まりて、源となりやがては谷川となり、高山より駆け下る水の勢いは、迸(ホトバシリ)、湧き上がり、逆巻く様の如しと。
佛家に曰く。愚かなる心より作りし罪科の山は高く、例え悔悟の涙を流すとも、死出の山路より流れ下る三途川と同じ、無明長夜の生死分別の河となり、己が所業を悔い改める事なくば、未來永劫浮き沈みして浮かばれる事無き理りを、良く良く得心致し四重五逆の業塵を、八風に當て悉く吹き掃うなれば、三業六情之罪垢は悉く海水に洗われて、八百鬼類等がなせる怖畏障碍之難は無く、十魔四魔の大軍は速に萬病之気を摧く。宣(ム)ベなる哉。無上の妙理を傳へて一切種智を得、内外の障難を除きて二世の悉地を成ずるなりと云ふ。
【原文】 速川能。瀬坐須。
【訓戒】 筑紫日向國小戸橘之檍原乃上乃瀬於謂布奈利。内意於按須留仁。三途八難乃河於謂也。
【口傳】 速川能(ハヤカハノ)。瀬坐須(セニマシマス)とは。高き御山、低き御山の合間に勢いよく流れ下る、谷川(速川の意)の川の瀬に座(イ)マすのが、小戸橘之(オトノタチバナノ)檍原(アヲギガハラ)の上の瀬を指すとも云はれ、佛家にては三途八難の河とされています。
【原文】 瀬織津比[口羊]止。云神。第海原爾。持出奈牟。如此持出往波。荒鹽之鹽之八百道乃。八鹽道之。鹽乃。八百會爾。坐須。
【訓戒】 伊弉諾尊所化乃神名。八十柱乃日神是奈理。天照太神乃荒魂於。祭宮那號須。悪事於祓布神也。荒天乃子閻魔法王乃所化乃神爾随布也。青海原乃潮於是八百會止云布也。即知龍宮也。
【口傳】 瀬織津比[口羊]止(セオリツヒメト)。云神(イフカミ)。大海原爾(オホウミノハラニ)。持出奈牟(モチイダシナム)。如此持出往波(カクモチイダシナバ)。荒塩之塩乃(アラシホノシホノ)。八百道乃(ヤホヂノ)八塩道之(ヤシホヂノ)。塩乃(シホノ)。八百会爾(ヤホアイニ)坐須(イニマス)とは。迸る水の勢いを「速川」と云ひ玉えば、瀬を下りた河原に於いて程よき流れに於いて禊をして穢れを祓い淨め玉ひしおり、生まれ出でし姫神として、「瀬下津比[口羊]」と名づけられしと。あちらの谷、こちらの谷と集まりて流れし谷川が、やがては迸る水の如く溪谷を駆け下りて川となり、小さき川も集まりて太き河となるように、集まり來たりし罪、汚れを瀬織津比[口羊]が引き取られ、大海原に送り届けて下さるのであります。荒鹽の荒は人も行き會わせぬ遠く隔つる場所を云ひ、鹽は潮の流れの事にて、そこには天の八衢(ヤチマタ)と同じように、海潮の流れが定まり、海洋に數多く有る流れを鹽の八百道(ヤオヂ)と云ひ、是れを更に打ち返して八鹽道(ヤシホヂ)と云うなり。斯くの如く潮流が廣き海洋において四方八方より流れ會う所を、鹽の八百会(ヤオアヒ)と云うなり。
【原文】 速開都[口羊]止。云神。持可可呑弖牟。
【訓戒】 伊弉諾尊所生乃神也。水門也。二柱坐須奈理。一都波速秋津日子乃神止名付久。天照太神乃別宮也。瀧原龍宮天子乃所化。難陀龍王乃妹。速秋津比賣神。天照太神乃別宮奈理。宮於並邊號志弖五道太神乃所化也。一切乃悪事於消滅須留所也。
【口傳】 速開都[口羊]止(ハヤアキツ ヒメト)。云神(イフカミ)。持加々呑弖牟(モチ カカノンテム)とは。天あれば、そこに天津神(アマツカミ)有り、地に有れば國津神(クニツ カミ)あり、海に於いては速開津比[口羊]が座(イマ)すなり。此の神は祓ひによりて流れ來たりし罪咎の全てをガブガブと音を立て呑み下す様を「加々」と云ひ、その結果が海底深く沈め去りて、再び海上に浮く事が無きを云ひしなり。佛家に於いては、その人の犯せし罪の軽重を恰も裁く閻魔法王の如き神を瀬居津姫と名づくなり。犯せし罪業の全てを勘定し、重き罪ありしものは五道太神の如き神、早開津姫の許に送り、其の罪に相應しい地獄へと誘うなれば、常日頃より身を慎み、神佛に適う道を歩み、罪咎や穢れにより身を垢穢に染まらさぬように心掛けること肝要なり。
【原文】 如此可可呑弖波。氣吹戸坐須。氣吹戸主止。云神。根國底之國爾。氣吹放弖牟。
【訓戒】 氣吹戸止波小戸乃河也。一書仁泰山止云布奈利止。氣吹主神都波伊弉諾尊乃所化乃神奈理。名波直日神。大直日神奈理。豊受宮乃荒魂於賀宮止號須。善悪不二乃智心於以弖。諸事廣大乃慈悲於垂禮玉布。聞直志。見直志玉布神也。高山乃天子。太山府君所化乃神也。
【口傳】 如此可々呑弖波(カクカカノンテトハ)。氣吹戸坐須(イブキドニイマス)。氣吹戸主止(イフキトヌシト)。云神(イフカミ)。根國底之國爾(ネノクニソコノクニ)。氣吹放弖牟(イブキハナチテン)とは。山に風穴有りて根の國より風吹き來る如く、海にも潮路と潮路の境目に風穴の如きもの現れて、そこに住まひし神を氣吹戸主神(イフキト ヌシノカミ)と云ひ、海底深きにある根の國より大海原に向かいて、恰も鯨が海水を吹き出す如く。一氣に吐き出され玉ふのである。佛家に曰く。海底深き所に住み玉ふ伊吹戸主なる神は泰山府君の化身なりと。兩部神道の教へでは善悪不二の智心を以て諸事に亙り、廣大無邊の慈悲を垂れ玉ひ聞き直し、或ひは身直し玉ふ故に直日神(ナオヒノ カミ)、大直日(オホナホヒノ カミ)として、全ての萬(ヨロズノ)の凶事(マガゴト)を直し、淨め玉う御霊(ミタマノ)神としてあらしめ玉ふなりと。
第十一段 鎮悪神祓
【原文】 如此氣吹放弖波。根國底國爾。坐。
【訓戒】 無限乃大火底仁寸天。阿鼻叫喚乃大城也。
【口傳】 如此氣吹放弖波(カクウシナヒテハ)。根國底之國爾(ネノクニニ)坐(イマ)すとは。清淨な高天原と異なり、罪穢の落ち合う國、根の國に溜まりし汚泥、垢穢を吐き出し玉へば、後に残るものが何も無いなりと。
【原文】 速佐須良比[口羊]登。云神。持佐須良比失弖牟。
【訓戒】 伊弉冉尊乃其乃子速須盞鳴尊也。焔羅王也。司命司祿等乃神乃所化也。
已上天益人従。速佐須良比[口羊]神仁至留迄乃。天津祝詞波天上乃梵語也。
【口傳】 速佐須良比[口羊]登(ハヤサスラヒヒメト)。云神(イフカミ)。持佐須良比失弖牟(モチサスラヒウシナヒテン)とは。更にに海底深き所に住玉ひし佐須良比[口羊]の神徳により、天津罪。國津罪の残れる罪を何処ともなく持ち運びさり、捨て玉ひて雲散霧消し玉ふのである。
【原文】 解除[娑。口縛。賀。]
【訓戒】 一切不祥乃事。散失須留也。
【口傳】 此の段は弘法大師撰の中臣祓に有るも、叡尊僧正の菩薩流神道に於いては無く、更に、重々口傳には、弘法大師撰の中臣祓はこの段にて祓文は終わり、最後に 皈命頂禮  法界海中  普賢境界 一切三寶  我住三界  未得出離  是故發心  偈一條法
第十二段 八百万神納受祓
【原文】 如此。佐須良比。失給弖者。今日以後。罪止云。罪咎。不在物。祓給。清給事。祓戸乃。八百萬神等。平安所。聞食申。
【訓戒】 一切の悪神於祓比退計。善神善岐事好牟也。然禮波則知罪咎有留人波。曾知以弖之无志。神祇有禮波祓。則知五衰三熱之苦无久。人鬼病有時波祓於以弖療治施與止。内外清淨。六根清淨仁志弖。而長壽延命也。七難即滅。七福即生乃粧比。千里内七難不起乃金文奈理。富貴官位七寶求女留仁意乃如志。亦行岐來留男女互仁求留所乃祈願仁毛。高天原仁坐須八百萬乃神々毛。聞耳於立手給比。善久其乃意都那須處於。聞岐届計賜布奈理。
【口傳】 如此(コノゴトク)。佐須良比(サスラヒ)。失給弖者(ウシナヒテハ)。今日以後(キョウヨリノチハ)。罪止云(ツミトイフ)。罪咎(ツミトガハ)。不在物(アラジモノト)。祓給(ハラヘタマヘ)。清給事(キヨメタマフコトヲ)。祓戸乃(ハライドノ)。八百万神等(ヤオヨロズノカミタチ)。平安所(タヒラケク)。聞食申(キコシメセトモウス)とは。世の中の凶々(マガマガ)しき凶事(マガゴト)は、古代人(イニシエノ ヒトハ)黄泉國(ヨミノクニ)より起こりしものとして、再び黄泉國に送り返さんとして、様々の神々を冥道に至る道筋に、祓の諸神を祀り、祓の大神の慈悲の心に縋り、諸神の願海を以て生死の穢泥(オデイ)に至るまで、悉く浄化(キヨメ)されるというのが祓ひの本義であれば、高天原の尊き神々は一切の悪神を祓ひによって、邪神(アシキカミ)を祓ひ淨め、善神(ヨキカミ)に立ち返らせるのが天津神の教えなりと。然れば若し過ちて罪を犯す事あれば、神の御前にて祓ひの神事(カミツ ワザゴト)を嚴かに執り行う事によって、諸々の穢れを祓ひ淨め、五衰三熱の苦しみからも免れるなれば、常に内外を清淨にし、六根清淨にして、七難即滅七福即生を祈れば、高天原の神々も聞き耳を立て玉ひ、善くその意とするところを聞き届け玉うと云ふなり。

 

最後に此の秘傳訓戒を畢るに、其の證として伊勢に傳わる秘偈を與えん。

伊勢太神託宣による

実相真如之日輪は 生死長夜之闇を明らかにし

本有常住之月輪は 無明煩惱之雲を掃き淨むる

 

日輪は則ち天照太神なり。胎蔵界は大日教令輪身にて不動明王となる。

月輪は則ち豊受大神なり。金剛界は大日教令輪身にて降三世明王となる。

西大寺元長老
菩薩流神道神祇師 金田 元成